藤田 遼

 

物質は状況によってさまざまに異なる状態や性質を示す。水が温度によって水蒸気や氷に変化するのは、その身近な例だ。しかし、絶対零度近くまで冷やす、強力な磁場のもとにさらすなど、物質を極端な状況におくと、日常ではありえない特異な性質を示すことがある。そのような物質の特異な性質のいくつかを、「トポロジー」という現代数学の考え方を用いて解明した3人の理論物理学者、サウレス、ハルデーン、コステリッツが2016年のノーベル物理学賞を受賞した。

 

「トポロジー」では、図形を連続的に変形しても変わらない特徴に注目する。長さや体積は、伸縮や曲げといった図形の連続的な変形に伴って細かく変動するので、トポロジー的な量ではない。一方、例えば、アルファベット「A」「B」「C」「D」を図形として見ると、AとDには1つずつ、Bには2つ輪があり、Cには輪がないが、この輪の数は図形の連続的な変形では変わらないトポロジー的な量である。長さや体積が小数で表される数値を取りうるのに対して、トポロジー的な量は整数値0,1,2のような飛び飛びの値しかとらないのが特徴だ。

 

トポロジーを使って解明された物質の特異な性質として「量子ホール効果」がある。これは半導体と絶縁体の境界に非常に強力な磁場をかけるとき、通常なら磁場の強さが変わるとそれに伴って連続的に変化するはずの電気抵抗が飛び飛びの値しかとらない、という現象である。受賞者の一人であるサウレス博士は、量子ホール効果における電気抵抗が、現象の背後にあるトポロジー的な量から決まるとして、この現象を理論的に説明することに成功した。