草場 哲

 

同じ物質でも温度などを変えると様々な状態を示す。例えば、水は冷やすと氷になり、熱すると水蒸気になる。気体や液体といった、密度などを用いて区別できる状態のことを「相」と呼び、各相の間を移り変わることを「相転移」という。

 

他に相転移を起こすものとして磁石がある。密度の代わりに磁力に着目すると、ある温度以上では磁石ではなくなる。磁石は磁石の性質を持った多数の原子でできていることから、物理学者はこれを説明するために、規則正しく並んだ多数の小磁石の振る舞いを考える。低温では小磁石の向きがそろっているため全体で1つの磁石となるが、高温では熱でその向きがばらばらになるのだ。

 

KosterlitzとThoulessは3次元ではなく2次元の面上に小磁石が並んだ状態を考えた。2次元の場合、どんなに温度を下げても磁石にはならず、相転移は起こさないと考えられていた。だが磁石にならない代わりに、磁石の向きが渦を巻くように並ぶ状態へと相転移することを発見したのである。

 

また、Haldaneは1次元、つまり一列に並ぶ小磁石の振る舞いを考えたとき、小磁石の強さが変化すればこれまでと異なる新たな相を示すことを予想した。この考え方が正しいことは後に研究者たちによって理論的・実験的に明らかにされた。

 

彼らの研究は、従来の相の分類の仕方とは異なる「トポロジカル相」という新たな分類の考え方へと発展した。その適用例としては1985年のノーベル賞の対象である「量子ホール効果」が挙げられ、Thoulessも理論構築に貢献している。また、中身は絶縁体だが表面は金属状態という新たな物質「トポロジカル絶縁体」が理論提案・発見され、現代物理学の大きなトピックの一つとなっている。