瀧口 あさひ

 

外部からの刺激に応答して制御された動きをするのが機械だが、それを分子サイズに縮めたのが分子マシンだ。2016年のノーベル化学賞は、分子マシンを開発するための基礎研究でSauvage、Stoddart、Feringaに与えられた。その中でもStoddartはロタキサンの構造を用いた分子マシン合成に関する業績を上げた。

 

ロタキサンとはダンベル形分子の真ん中の軸に環状分子が通された構造で、軸状分子と環状分子からなる。環状分子はダンベルのおもり部分に引っかかり、軸から抜けない構造だ。環状分子は正電荷を帯びていて、軸には負電荷を帯びている部分が2ヶ所ある。熱を加えると、環状分子は負電荷に引き付けられてその2ヶ所を絶え間なく行き来するようになる。

 

Stoddartはロタキサンの環状分子の動きを制御できれば分子マシンとして活用できることに着目し、改良を加えてpH変化や酸化還元、エネルギーを与えるなどの刺激で環状分子を左右に自由に動かすことに成功した。ついにはロタキサンを応用して0.7 nmもの極微な距離の動きを制御できる分子エレベーターまで組み上げた。

 

さらにStoddartは分子エレベーターを用いてコンピューターメモリを開発した。エレベーターの箱の上下の位置の違いで0と1を記録する仕組みだ。現在使われているシリコンチップを遥かに上回る小ささで超高密度に記録でき、実用化できればコンピューターに革命的な発展が訪れるとも言われている。

 

モーターの発明がのちの産業革命につながったように、分子マシンが新たな「産業革命」を起こす可能性のある偉大な業績だ、とノーベル財団はコメントしている。