目次


第23回MACSコロキウム

 

開催案内

日時

2023年7月14日(金)14:45〜18:00

 

開催場所

北部総合教育研究棟 益川ホール (対面のみ)
アクセス 建物配置図(北部構内)【13】の建物

 

参加登録

https://forms.gle/w2N22QyDvMsqz6xcA
参加の方は登録をお願いいたします

 

プログラム

14:45〜15:00

ティータイムディスカッション

15:00~ 16:00

講演1

「魅惑の楕円曲線 〜最近分かってきたこと、まだまだ分からないこと〜」

伊藤 哲史 博士

京都大学理学研究科数学・数理解析専攻 准教授

 

3 次式で定義されたなめらかな曲線を「楕円曲線」といいます。楕円曲線には、y2 = x3 - xには有理点が (0, 0), (±1, 0) の 3 個しかないのに、y2 = x3 - 4 には (2,2), (5,11), (106/9, 1090/27), ... のように無限個存在するなど、その単純な定義からは想像もできないような不思議な性質が沢山あることが分かっています。最近では楕円曲線は暗号にも応用されています。この講演では楕円曲線の整数論にまつわる話題について、最近の研究成果も交えながら紹介したいと思います。

16:15〜17:15

講演2

「高エネルギーニュートリノで見る新しい宇宙の姿」

石原 安野 博士

千葉大学ハドロン宇宙国際研究センター・国際高等研究基幹  教授

 

光では見えない宇宙はどのような姿をしているのか。宇宙には、人間には作り出せないほど大きなエネルギーを持つ宇宙粒子が飛び交っているが、その生成の現場を直接観測することは難しい。その直接観測を可能とするのがニュートリノだ。本講演では、南極点にある巨大ニュートリノ検出器である「アイスキューブ」によって観測する高エネルギーニュートリノで探る高エネルギー天体観測の進展について話す。

17:15~18:00

継続討論会 コロキウム講演者との自由な雑談

  

備考

◎本コロキウムは理学部・理学研究科の学生・教職員が対象ですが、京都大学・理化学研究所に在籍されている方はどなたでもご参加いただけます。
◎学内教育プログラムに関するイベントであるため、学外・一般の方の登録は原則不可としております。ご登録いただきましてもリストより削除させていただくことがあります。
◎問い合わせ先:macs * sci.kyoto-u.ac.jp(*を@に変えてください)


講演動画

講演1「魅惑の楕円曲線 ~最近分かってきたこと、まだまだ分からないこと~」伊藤 哲史 氏


開催報告

第 23回 MACSコロキウムの前半は、京都大学の伊藤哲史准教授に「魅惑の楕円曲線 〜最近分かってきたこと、まだまだ分からないこと〜」というタイトルで講演していただきました。

まず、楕円曲線は誰しも日常で使うもの、例えば検索サイトの暗号化に使われているものであることを紹介されました。

ついで、テイクホームメッセージとして

楕円曲線は楕円ではない

ということを紹介されました。

その後、楕円曲線の数学的な定義、なめらかな三次式で表される曲線、を紹介されました。楕円曲線は実数上では曲線ですが、複素数上ではドーナツや浮き輪のような穴が一つ空いた形をしています。

続いて話題は楕円関数にまつわる研究トピックの話に移りました。楕円曲線の上の有理点(座標が有理数になる点と無限遠)の数には様々な不思議があります。

楕円曲線の有理点を一つ取ります。その有理点で楕円曲線に接する直線を引いて、その直線の楕円曲線との(最初の接点とは別の)交点を取り、その交点での接戦を引いて、また別の交点をとる、ということを繰り返します。実はモーデルの定理により、楕円曲線の全ての有理点は有限個の有理点から出発してこの"接線をひいて、交点をもとめる"方法で得られるという不思議があります。

"接線をひいて、交点をもとめる"方法で繋いでも有限個の有理点しか得られない点をねじれ点と呼びます。

ねじれ点を除いて、最小で何個の有理点から"接線をひいて、交点をもとめる"方法で全ての有理点を得られるかを考えます。この最小値を楕円曲線のランクと呼びます。ランクの計算は難しいです。ただ、ほとんどの楕円曲線のランクは小さい値になると考えられています。実は楕円曲線を"高さ"というものを使って順番に並べると以下のことが予想されます: 高さが一定以下の楕円曲線のランクの平均を取ると 1/2になる。

一般の場合はどうでしょうか?曲面の穴の数を種数と言います。すでに述べたとおり、楕円曲線は種数が 1になっています。では種数が 2以上の場合はどうでしょうか?

ファルティングスの解決したモーデル予想により、種数が 2以上の曲線には有理点は有限個しかないとわかっています。しかし、これも具体的な個数を計算することは困難です。関連する結果として、伊藤先生は種数が2以上の場合でも一般化された有理点の個数を具体的に計算できるという共同研究を紹介されました。

また、実数や複素数ではなく有限体上の楕円曲線を考えても、有理点を"接線をひいて、交点をもとめる"ことで有理点を作れます。これを暗号に応用するのが楕円暗号です。

ある楕円曲線の有理点の個数を色々な有限体上で調べてみるとその個数はどう変化するか、という問題は保型形式という分野と合わせて様々に研究されています。特にミレニアム問題の一つである BSD予想という問題は有理数体上の楕円曲線と保型形式に関する未解決問題です。

講演後には多くの質問があり講演後の継続討論会も大盛り上がりでした。

講演の締めくくりに伊藤先生はこの講演で最も重要なことを述べられました。それを紹介してこの報告の結びとしたいと思います。

楕円曲線は楕円ではない

(文責: 三上渓太)

 

 第23回MACSコロキウムの後半は、千葉大学の石原 安野 教授に「高エネルギーニュートリノで見る新しい宇宙の姿」というタイトルで講演していただきました。

 講演は、原子の大きさを野球場程度とすると原子核は綿毛程度の大きさ、その原子核を野球場の大きさとすると、ニュートリノは人の髪の毛の太さ程の大きさ、というニュートリノの反応のしづらさについての大変分かりやすい例えから始まりました。ニュートリノは地球からは1 cm3 あたり毎秒6000万個、人体からも毎秒3000個放出されている身近な粒子であるが、反応しづらいため多くは地球も人体も素通りしていくとのことです。

 石原先生はそのニュートリノによる宇宙観測を行っています。光ではないニュートリノによる宇宙観測のアドバンテージは、1.光が通り抜けられない高密度状態や、天体の内部の情報を得ることができる、2.光が遠くまで到達しないエネルギー領域の情報を得ることができる、3.人工的に到達できないエネルギー領域の素粒子物理の検証ができる、の3点があります。近年は光による望遠鏡や重力波による望遠鏡と観測ネットワークを形成し、ニュートリノ望遠鏡で天体の爆発的な現象を観測した際にすぐに他の観測所に連絡し、他の望遠鏡でも該当する天体を観測することを行っています。具体的に実際に速報が行われた 170922A 天体の紹介や、10年間の測定の蓄積データより放出天体を同定したNGC1068の紹介がありました。

 次にニュートリノ望遠鏡の作り方・しくみについてのお話がありました。ニュートリノはごくたまに反応し、その際に電荷を持った粒子が生まれます。その荷電粒子が物質中を通過するときにわずかに発せられるチェレンコフ光と呼ばれる光をとらえます。IceCube実験では南極の氷を反応剤として、1 km3 に渡って5000個以上の光計測機を埋め込み、ニュートリノ望遠鏡としています。お湯を使って深さ 2.5 km の穴を掘り測定器を埋めていく、一度埋めた測定器は凍ってしまい二度と取り出せない、実験開始前は測定器の長期安定性に不安があったが、埋めて10年経ってもほとんど壊れていない、といった実験の小話もしていただきました。

 現在IceCube では年間40-50事象の宇宙ニュートリノ事象の観測がされています。最後に、8 km3 に光計測器を埋め込む次期Ice Cube-Gen2 実験の紹介がありました。測定体積が大きくなることで、統計が増えるだけでなく角度分解能が向上し、ニュートリノが由来する天体をより同定しやすくなります。

 質疑応答では講演時間に収まらないほどの多くの質問があり、続く継続討論会も終了時間を過ぎるほど盛り上がりました。

(文責:冨田夏希)