Alexandre Alie 日本学術振興会外国人特別研究員(理学研究科、現フランスCNRS)と船山典子 理学研究科准教授らの研究グループは、動物の幹細胞が多様な細胞へ分化する機能(幹細胞性)に必要な遺伝子レパートリーを明らかにしました。生物が進化の過程でどのように幹細胞を獲得したのか、その分子基盤を明らかにする研究成果です。

 

本研究成果は2015年12月7日、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載されました

研究者からのコメント

左からAlie外国人特別研究員、船山准教授

この研究を通して、多細胞生物の進化の初期に獲得された幹細胞の分子基盤は、遺伝子の転写の調節というよりも、転写後の発現調節機構が重要であったのだろうということがわかりました。カイメン幹細胞とES細胞で共通の転写後調節機構が働いている可能性があるという興味深い結果も得ることが出来ました。

概要

船山准教授らはこれまでに、カイメンの幹細胞システムは、「全能性幹細胞(アーキオサイト)」と「襟細胞(普段は食細胞という分化細胞として働きながら、配偶子形成や再生など特別の状況下では全能性を発揮できる)」という2種類の細胞からできていることを細胞、分子レベルで解明してきました。今回の研究ではこの2種類の細胞を単離、それぞれの細胞種で発現している遺伝子の網羅的な解析を行いました。カイメンの特定の細胞に関するこのような解析は初めての報告です。カイメン全能性幹細胞(アーキオサイト)と、刺胞動物のヒドラと扁形動物のプラナリアの多能性・全能性幹細胞およびES細胞で発現する遺伝子とを比較することで、どういった遺伝子が幹細胞としての働きに、動物の進化の過程で最も古くから獲得され用いられてきたのかを明らかにしました。

 

カイメンは単細胞生物から細胞によって異なる役割を持つ多細胞動物への進化の枝分かれに位置する進化的に最も古い多細胞動物であるため、幹細胞の維持および幹細胞から特定の細胞を分化させ器官を形成する起源的な仕組みを持つ生物として注目されています。

左図: 無性生殖(芽球からの個体形成)による2ミリ程のカワカイメン個体とカイメン幹細胞アーキオサイト
右図: カワカイメンの幹細胞システムのモデル図

※ 文部科学省科学研究費補助金「新学術領域」「ミクロからマクロへ階層を越える秩序形成ロジック」公募班、科学技術振興機構さきがけ「細胞機能の構成的な理解と制御」(船山典子)および 佐藤矩行博士(沖縄科学技術大学)、林哲太郎 博士(理化学研究所)らの技術的なサポートによって行われました。

 

詳細は、以下のページをご覧ください。

 

カイメンが明らかにした幹細胞の起源的な分子基盤 京都大学