渡辺勝敏 本研究科生物科学専攻准教授、岩田明久 アジア・アフリカ地域研究研究科教授、鹿野雄一 九州大学准教授らの研究グループは、カセサート大学(タイ)、ミャンマー森林局、タウンジー大学(ミャンマー)、山階鳥類研究所と共同で調査研究を行い、ミャンマーの古代湖であるインレー湖の淡水魚類相を明らかにしました。1918年に調査報告されて以来の総合調査です。

 

本研究成果は、2016年11月9日に生物多様性に関する国際誌「Biodiversity Data Journal」電子版に掲載されました。

研究者からのコメント

 インレー湖は生き物も人々の文化も独特で、とても魅力的な場所です。しかし、現在ミャンマーでは経済発展が急激に進んでおり、そのためインレー湖周辺でも土地開発や水質汚染が目立つようになりました。インレー湖はミャンマー屈指の観光地であり、景観とともに生態系や生物多様性を保全していく必要があります。本研究が、インレー湖の魚類多様性やかけがえのない自然環境に対する地域住民や行政の関心をより一層高め、生態系保全や持続的な観光促進に役立ててもらえるなら、この上ない喜びです。

本研究成果のポイント

  • 琵琶湖をはじめとした「古代湖」は太古から存在する湖で、世界でも20ほどしかない地学的・生物学的にも貴重な湖です。今回、ミャンマーの古代湖インレー湖で魚類の総合調査を行いその魚類相を明らかにしました。インレー湖の魚類相については1918年に報告されて以来情報がなく、およそ100年ぶりに再び明らかとなりました。
  • 調査の結果、いわゆる「古代コイ」など28種の固有種や在来種の生息を確認しました。しかし一方でティラピアや養殖系統のコイなど、17種の外来種・移入種も野外での生息が確認されました。4種については詳細不明で今後新種として記載される可能性もあります。
  • 本調査の分布情報や魚類標本の写真はこちらから閲覧可能です。また一部の標本についてはCTスキャナによって読み取られ、その3Dデータもこちらから閲覧できます。
  • 近年のミャンマーの民主化・資本主義化にともない、インレー湖周辺では土地開発や水質汚染など、急激な環境変化が懸念されています。インレー湖はミャンマーを代表する観光地であり、本研究がその生態系保全や観光促進に役立てられていくことが期待されます。
 

概要

インレー湖はミャンマーのシャン州に属する湖で、世界的にも珍しい「古代湖」とされます。生物学・魚類学的にも貴重な湖ですが、1918年にトーマス・ネルソン・アナンデール博士がその魚類相について報告して以来、一世紀近く報告がなく、現在どのようになっているのかは不明でした。近年はインレー湖の環境は劇的に変わっており、固有種・在来種や外来種の生息状況は多くの魚類学者にとって関心の的でした。

 

そこで本研究チームは、2014年から2016年にかけて、インレー湖とその周辺述べ68地点で、淡水魚の野外捕獲調査および市場買い取り調査を実施しました。

 

その結果、19科49種の野外での生息を確認しました。このうち13種は、「古代コイ」 (学名:Cyprinus intha) など、インレー湖とその周辺にのみ分布する固有種でした。15種の在来種、17種の外来種・移入種も確認しました。また、本調査による分布データ、標本写真、標本の3Dモデルなどをオンラインで公開しました。

図:インレー湖とその周辺の魚類
 

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