神野 裕貴

 

 「一般に物質には固体・液体・気体の3つの状態があり、それらを物質の三態という」ということはみなさんご存知だと思います。「ドライアイスは固体、水蒸気は気体」などと学校の授業で分類をした経験のある方も多いことでしょう。三態の違いを考えるときには物質を構成する原子や分子を一様な球体だとみなして、それぞれの重心がどのくらいきれいに並んでいるかで区別していたのではないでしょうか。

 

 では、物質を構成する原子や分子が一様な球体だとみなせない場合はどうでしょうか。例えばディスプレイなどに使われる液晶は分子が細長い形をしており、先ほどまでのどれくらいきれいに並んでいるかという秩序のほかに細長い分子の向きの秩序も考えることができます。そのような棒状分子を頭の中で並べてみると、たとえば重心の位置は液体のように無秩序でも分子の向きだけがそろった状態を考えることができます。こういった状態はネマティック相と呼ばれ、偏光板に挟まれたネマティック液晶に電場をかけてその向きを制御することで電卓やデジタル時計などの表示デバイスに応用されます。

 

 液晶のほかにも特殊な構造を作り出す分子はたくさんあります。たとえば界面活性剤と呼ばれる物質は分子の中に水になじみやすい親水基と油になじみやすい親油基を持ち、その性質を利用して洗剤として利用されたりマヨネーズのように水分の中に油分を分散させる役割を果たしますし、小さな分子単位が多数つながったポリマーはゴムや生体構造として存在しています。このように、単純でない性質をもった物質系が作り出す豊かな構造は日々の暮らしの中に深く浸透し、我々の豊かな生活に一役買っています。