メディアの理屈もわかる研究者に

京都大学広報課国際広報室
サイエンス・メディア・センター
菊地 乃依瑠
(2016年度 サイコム講師)

研究内容をわかりやすく平易に伝えようとする際にいつも問題になるのは、研究に関する全ての情報を伝えることはできないという点です。研究者が最も重要だと思っている点と読者が興味を持つ箇所が重なっていれば良いのですが、全く重なっていない場合は間に立つライターが調整役を果たさねばなりません。更に、多くの場合読者の理解を助けるための背景の情報や、社会との接点についてのヒントを少ない字数に盛り込む必要があります。こういった無理難題をクリアしたうえで、非専門家の興味を引くよう仕上げるのは意外と難しい作業です。

 

サイコムのようなプログラムの最も良い点は、実際に記事を書いてみることで記者の立場を体験し、科学を伝える取り組みが科学研究とは異なる目的や尺度で行われていることを理解できるということだと思います。British Science Associationでは、研究者や大学院生が6週間かけてテレビ局や新聞社の記者として科学に関する取材を行うプログラムを提供していますが、その目的はまさにサイコムが目指しているものと一致しています。慣れ親しんだ研究分野の外での取材や執筆を通して、自分たちのしてきた説明がいかにジャーゴンに満ちていたかを学ぶことができるのです。

 

このプログラムを通して、メディアの理屈と研究者の理屈をどちらも把握した上で科学を伝えるという稀有な能力の下地ができればと願っています。