小長谷 達郎

 

博物学と聞いてどのようなイメージを抱くだろうか?

 

博物学者を名乗る出演者がテレビに出たという話もほとんど聞かないし、古臭い香りさえ感じるかもしれない。しかし、博物学は名前を変えて今も研究されている現役の分野だ。博物学とは、動物・植物・鉱物などの自然界に存在するものについて、種類や性質を徹底的に記録し、整理していく学問だ。その記録をもとに、進化や岩石・星の形成などの自然を支配する法則について推理していく。英語ではナチュラル•ヒストリーという。

 

学校で習う理科のうち、生物と地学の一部が博物学の伝統を引き継いでいる。生物・地学は物理・化学とは決定的に異なる性質をもっているのだ。たとえば、リンゴは木から落ちる。その時の重力加速度は誰が測っても同じになるし、塩酸と水酸化ナトリウムが反応して塩化ナトリウムができることも実験すれば誰もが確認できる。物理や化学では、精密な実験によって厳密に証明していくことができるのだ。ところが、人間が全くの無から地球を作り出したり、プランクトンから犬を進化させたりできるだろうか?生物の進化や岩石や星の形成には、気の遠くなるような時間がかかる。実験によって全てを証明できない以上、博物学的な整理と推理が必要なのだ。

 

博物学は実験科学に比べて低くみられることもある。しかし、どのような性質のものが、自然界にどのように存在するかを明らかにし、その世界を支配する法則を推理することは、人類の存続上とても重要なことだ。どんなに“文明的”な生活をしていたとしても、私たちは自然がなければ生きていけない。自然と長く付き合っていくには、実験だけでなく、徹底的な調査も必要なのだ。