齊藤 颯

 

金属といえば無機物の代表格で、有機物とは相性が悪いようなイメージがありますが、意外にも両者を組み合わせて1 つの分子にすることができます。有機金属化合物と呼ばれるこの種の物質は、100 年以上も昔に発見されて以来、様々な場面で応用されています。学術研究はもちろんのこと、工業製品や医薬品などの身の回りのモノを作る上でも欠かせないものなのです。

 

炭素と金属という不思議な組み合わせは、他では不可能なことを幅広く実現できます。ここでは周期表で酸素の3 つ下にあるテルルを例にとります。樹脂の合成においては、小さな分子を何百何千と繰り返し繋げて大きな分子を作っていきますが、反応がどこで止まるかは確率の問題なので、色々なサイズの分子がどうしても混ざってしまいます。特に、反応があまり進まなかった小さな分子を多く含んでいると、表面がべたつく原因となってしまいます。しかし、テルルを含んだ有機金属化合物を使うと反応を細かく制御できるため、分子サイズが揃っている樹脂が作れます。この樹脂には小さな分子がわずかしか含まれていないので、はがしても跡がつかない高品質なフィルムとして実用化されています。

 

金属元素には多くの種類があってそれぞれが特徴を持っていますが、1 つの元素の性質を変えるのは簡単ではありません。他方で、有機分子は様々な形を作れるので、性質の微調整が可能です。有機金属化合物では「有機」の構造と「金属」の種類の組み合わせを変えることで、ほぼ無限の機能を作り出せるのです。私はその中でも、有機金属化合物が様々な反応の触媒として働くことに注目して、有機分子を還元する新しい方法を研究しています。医薬品などの複雑な分子を、今までより効率よく作れるようになることを目指しています。