企画名

疾患における集団的細胞挙動の数理モデルの開拓
 

参加教員

教員名 所属 職名
Karel Svadlenka(代表教員) 数学・数理解析専攻 准教授
田中 求 高等研究院、医学物理・医工計測グローバル拠点
ハイデルベルク大学
教授
山本 暁久 高等研究院、医学物理・医工計測グローバル拠点 助教
鈴木 量 高等研究院、医学物理・医工計測グローバル拠点 助教
協力:鶴山 竜昭 (広島大学医学部教授・京都大学医学部客員)
 

企画の概要

 このSGは、非常にダイナミックな生命現象である「疾患」を数学・物理のテーマとして取り上げ、医学(病理)の専門家との共同研究に参加することで、分野の枠を超えた学識を身に着け、これを各自の専門分野へと活かすことがこのSGの目的である。
 病理診断の現場においては熟練した病理医が、固定した細胞組織の染色画像を観察し、細胞の形状や配列秩序から疾患とその進行度をその経験から総合的に判断している。例えばがん組織は、健常な組織構造に比べて個々の細胞の見かけや集団秩序が乱れていることが知られているが、組織のホメオスタシス(恒常性)の乱れを定量的に解析・評価することは未開拓の課題である。このSGでは、ヒト病理画像を用いて、個々の細胞やその集団秩序構造の乱れを物理学的に解析し、これを数理モデリングとリンクさせることで定量化し、読み解くことを目指している。このように研究と直結した新しいテーマに意欲的に挑戦する参加者を募集する。
 2018年度にスタートした本SGは学部生から博士院生まで分野を超えた参加者が集っており、全体講義を通して知識を共有し、病理画像の解析にとりかかっている。初年度は一般公開されている病理画像の解析を始めたが、2年目には研究発表にも利用できる独自の病理サンプルを入手し、画像の撮影や細胞核データの抽出を行なった。また、3年目には、基底膜が激しく変形しているような病理画像の解析を可能とする数理アルゴリズムを実装した。昨年度には新しい病理サンプルを撮影し、画像解析ソフトウェアの新しい技術を活用することで、解析できる画像の幅と得られるデータの量はさらに広がった。今年度は数理統計解析により重点を置き、数理モデリングや新古のデータ解析手法の理論的な背景と応用方法を学びながら、病理画像を自動的に診断する分類器を開発し、データに隠された情報を読み取っていく。
 参加者は数学・物理・医学の三つの研究グループを回って、このSGで用いる解析・モデル手法や理論について講義もしくは実際のデータを前にした実習を通じて習得する。その中であがった成果や直面した疑問・問題点を全体のセミナーなどで発表・議論する。

 

実施期間・頻度

令和4年度・前期 後期
自由設計型SG:週に1回程度、時間のあるメンバーで集まり(オンラインまたは対面)、講義や演習を行い進捗状況について議論する。長期休暇を中心に集中講座・セミナー・実習を実施する。

 

TA雇用の有無

TAについては応相談。また、単位は与えない。
 

その他、特記事項など

生物・物理・数学分野(専攻ではない)の研究を行っている修士課程・博士後期課程の院生を主に想定しているが、意欲のある学部学生の参加も歓迎する。

 

問い合わせ先

Karel Svadlenka karel*math.kyoto-u.ac.jp
(*を@に変えてください)
 

スタディグループへの登録は締め切りました。
関心のある方は macs *sci.kyoto-u.ac.jp(*を@に変えてください)までご連絡ください。

 


画像
2022SG7_1
 病理サンプルの撮影
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2022SG7_2
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2022SG7_3
長山雅晴教授(北海道大学)の講演とその後の議論
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2022SG7_4
病理画像の解析結果(赤線:等高線分割,○:核のアスペクト比のヒートマッププロット)
 

SG7報告会資料ダウンロード

活動報告

活動目的・内容

非常にダイナミックな生命現象である「疾患」を数学・物理のテーマとして取り上げ,医学の研究グループと行っている共同研究に実際に参加することで,各自の専攻分野の知識を深めるだけでなく分野の枠を超えて研究の視野を広めることがこのSGの目的である.
病理診断の現場においては,固定した細胞組織の染色画像を観察し,細胞の形状や配列秩序から総合的に疾患の種類とその進行度を主に経験則に従って判断している.一般的に疾患時の組織は,健常時の組織構造に比べて個々の細胞の見かけや集団秩序が乱れていることが知られているが,組織のホメオスタシス(恒常性)の乱れを定量的に解析・評価することは未開拓の課題である.このSGでは,ヒト病理画像を用いて,個々の細胞やその集団秩序構造の乱れを物理学的に解析し,これを数理モデリングとリンクさせることで定量化し,読み解くことを目指している.
参加者は数学・物理・医学の三つの研究グループを回って,このSGで用いる解析・モデル手法や理論について講義もしくは実際のデータを前にした実習を通じて習得する.その中であがった成果や直面した疑問・問題点を全体のセミナーなどで発表・議論する.

 

活動成果・自己評価

昨年度に引き続き,子宮頸癌の病理組織の画像を解析し,健康な組織と区別するための物理的な指標を見つけ出す研究を行った.毎週オンラインで集まり,担当教員の指導の下で参加学生が自分の手で作業を行った.今年度は以下の新しい成果を得ることができた:
 

  1.  統計解析の基準となる健常組織の画像が少なかったため,健常組織を中心に新たな病理サンプルを撮影し,解析の対象となる画像の数を増やした.
  2.  病理画像における核抽出を行うための機械学習に基づく細胞抽出ソフトウェアの改良とマニュアル化を行なった.
  3.  以前に開発した等高線アルゴリズムの更新版を用いて,細胞核の特徴量を表すデータを取得した.
  4.  核の特徴を表すデータの統計解析を行なった.今年度はとくに,核の面積に加え,核の数密度の分布・等高線となす角度といった配列に関する指標と,核のアスペクト比・稠密度・真円度といった形状に関する指標を詳しく調べ,これらの指標ががん化プロセスにおいてどのように変化していくかを明らかにした.
 

毎週定期的に集まって議論したことと,参加学生が活発にSGの作業に加わり本質的に貢献したことのおかげで今年度も研究の大きな進展があり,充実した1年間の共同研究だった.来年度はがんステージの分類器の構築を含めた統計解析を進展させ,結果の論文化を目指す.

 

参加メンバー

氏名 所属 職名・学年
Karel Svadlenka(代表教員) 数学・数理解析専攻 准教授
田中 求 高等研究院、医学物理・医工計測グローバル拠点
ハイデルベルク大学
教授
山本 暁久 高等研究院、医学物理・医工計測グローバル拠点 助教
鈴木  量 高等研究院、医学物理・医工計測グローバル拠点 助教
天野  玲 物理学・宇宙物理学専攻 M1
石川  陽 数学・数理解析専攻 M2
奥山 紘平 物理学・宇宙物理学専攻 D1
小山 泰生 京都大学生命科学研究科 D2
加々尾 萌絵 医学研究科医科学専攻 M1
河本 理来 医学部医学科 B1
島田 草太朗 理学部 B3
田渕 辰悟 理学部物理学系 B4
司  怜央 医学部医学科 B5
永井 翔吾 物理学・宇宙物理学専攻 M1
吉田 智紀 医学部医学科 B1
藤﨑 碩人 数学・数理解析専攻 M2
大谷 暢宏 医学部 B5
(協力:鶴山 竜昭 広島大学医学部連携大学院教授(生体反応病理学)・京都大学医学部前教授(医学部客員研究員))