企画名

本物を見て考えよう!:脊椎動物の胚観察から数理の可能性を探る

参加教員

教員名 所属 職名
高瀬 悠太(代表教員) 生物科学専攻 MACS特定助教
高橋 淑子 生物科学専攻 教授
國府 寛司 数学・数理解析専攻 教授
荒木 武昭 物理学・宇宙物理学専攻 准教授
平島 剛志 医学研究科 医学・医科学専攻 講師

関連専攻

専攻名  
数学・数理解析
物理学・宇宙物理学
地球惑星科学
化学
生物科学
●:参加教員の専門分野(所属専攻)・学生を募集する主な分野(専攻)
○:学生・教員から希望があれば参加可能な分野(専攻)
 

実施期間(開講曜日・時間等)

年度・期 開講曜日 時間 場所
平成30年度・通年 未定・隔週に 1 回程度 金曜5限(予定) 理学部1号館5階532号室 または
理学部1号館2階232号室

企画要旨・目的

本企画では、前年度同様、数理と生物科学との分野横断の実例を学びつつ、脊椎動物の生きた胚を観察し、発生過程で起こる様々な現象について数理モデルで説明できる可能性を議論する。具体的には、発生現象を数理的に解析した研究論文を輪読すると共に、その発生現象の「実物」を観察し、数理と生物科学との分野横断の実例を学ぶ。扱う生物は、発生過程を直接観察でき、かつ未経験者でも扱い易いニワトリ胚を予定している。

本年度注目するトピックは、組織の「硬さ」や組織にかかる「力」など、物理的な要素が発生現象に与える影響についてであり、前期には、腸のひだひだ(絨毛)形成に関する論文 [1] を輪読する。この論文では、腸を覆う筋肉の層が腸の形態に物理的な制約を与えることで、絨毛形成が進行することを明らかにしている。この他、以前の SG でも扱った腸のルーピング構造形成についての論文 [2] も合わせて輪読する。トリ胚実習では、腸の絨毛やルーピングの形成過程の観察や実験を行う予定である。

後期には、細胞の集団移動における足場組織の硬さの役割に注目した論文 [2] を輪読する予定である。この他、発生過程における「力」や「硬さ」の役割に関する総説を読み、物理的な要素の測定方法や人工操作法の最新知識を学び、トリ胚実習にも活かしていく予定である。

[1] “Villification: How the Gut Gets Its Villi, AE Shyer et al., Science (2013)”
[2] “On the growth and form of the gut, T Savin et al., Nature (2011)”
[3] “Tissue stiffening coordinates morphogenesis by triggering collective cell migration in vivo, EH Barriga et al., Nature (2018)”

問い合わせ先

高瀬悠太 yu-takase*develop.zool.kyoto-u.ac.jp
(*を@に変えてください)
 

スタディグループへの登録は締め切りました。
関心のある方は macs *sci.kyoto-u.ac.jp(*を@に変えてください)までご連絡ください。

 


図1. 論文輪読の様子

論文1で語られていた粘土による絨毛形成モデルを自分たちでも検討し、モデルの適切性などを議論した。



 

図2.トリ胚実習の様子(前期)
トリ胚中腸を解剖し、絨毛形成の過程を自分たちでも観察した。

 

報告会資料ダウンロード(2.36MB)

活動目的・内容

本SGは昨年度に引き続き、生き物のかたちづくりの過程で生じる多様な生命現象を数理モデルで説明できる可能性について議論することを目的とする。そのため、発生現象に関する分野横断的(数理+生物科学)な論文の精読と、実際の胚観察とを併せて実施する。

今年度注目するトピックは組織の「硬さ」や組織にかかる「力」など、物理的な要素が発生現象に与える影響についてである。前期には、脊椎動物の腸内にできるヒダヒダ構造(絨毛)の形成に関する論文1を精読する。この論文では、腸を覆う筋肉層が腸の形態に物理的な制約を与えることで、絨毛形成が進行することを明らかにしている。この他、2016年度の SG でも扱った腸のルーピング構造形成についての論文2も同時に輪読する。もう一つの重要な活動であるニワトリ胚実習では、腸の絨毛やルーピングの形成過程の観察や実験を行う予定である。

後期には、細胞の集団移動における足場組織の硬さの役割に注目した論文3の輪読を予定している。これに加えて、発生過程における「力」や「硬さ」の役割に関する総説も読み、物理的な要素の測定方法や人工操作法の最新知識を学び、ニワトリ胚実習にも活かしていく予定である。

 

1: “Villification: How the Gut Gets Its Villi”, Shyer AE. et al., Science, 2013
2: “On the growth and form of the gut”, Savin T. et al., Nature, 2011
3: “Tissue stiffening coordinates morphogenesis by triggering collective cell migration in vivo”, Barriga EH. et al., Nature, 2018.

 

活動成果・自己評価

本SGの参加学生は学部生のみであったが、全員が数理と生物科学との融合研究に強い興味を抱いており、精力的に題材論文の精読に取り組んだため、SG活動時に活発な議論が飛び交った(図)。加えて、数学・物理の参加教員による論文の数理部分の解説や、数理と生物科学との融合研究に取り組んでいる生命科学系の参加教員らによるコメントもあり、当初の想定以上に深い理解ができた。後期は当初予定していた論文ではなく、聴覚・嗅覚の感覚細胞の感覚器官内分布パターンの形成に関するレビュー ”Differential and Cooperative Cell Adhesion Regulates Cellular Pattern in Sensory Epithelia, Togashi H., Front. Cell Dev. Biol., 2016” を輪読した。この論文では、感覚細胞およびその周囲の細胞との間での細胞接着力の違いが分布パターン形成に寄与していることを解説しており、細胞接着力の強弱の定量性測定や定量的データに基づいたシミュレーションの必要性についての議論が盛り上がった。

ニワトリ胚の観察実習として、前期は腸内のヒダヒダ構造(絨毛)の発生過程を、後期は腸ルーピングおよび内耳の発生過程の観察を行った(図)。実際に自分の手を動かしてみることで、論文の写真からでは分からない、本物の美しさや複雑さなどを感じることができたと思われる。この他、本SGでは、主催/共催含めて5回の外部セミナーを開催した。特にEdouard Hannezo 博士と進藤 麻子博士のセミナーでは、細胞の集団挙動や組織の枝分かれ構造について数理を駆使したアプローチを試みており、数理と生物科学との分野横断的研究の最前線の話を聞くことができた。

 

参加メンバー

氏名 所属 職名・学年
高瀬 悠太(代表教員) 生物科学専攻 MACS特定助教
荒木 武昭 物理学・宇宙物理学専攻 准教授
國府 寛司 数学・数理解析専攻 教授
高橋 淑子 生物科学専攻 教授
平島 剛志 医学研究科 講師
本田 直樹 生命科学研究科 准教授
田中 敬也 理学部 B3
石田 祐 理学部 B2
藤山 鴻希 理学部 B1

[SG3]トリ胚実習(2018年8月6日~8日)

 

SG3「本物を見て考えよう!:脊椎動物の胚観察から数理の可能性を探る」では、本SGの前期題材論文 ”Villification: How the Gut Gets Its Villi (Science 2013)” で行われていたトリ胚中腸の絨毛形成を観察しました。参加学生たちは自分達の手で、孵卵9〜18日目のニワトリ胚の中腸を切り開き、絨毛の形成過程を観察しました。そして、論文に記されていた絨毛の形成過程を確認できたことに加え、論文では触れられていなかった腸の前側-後側における絨毛形成の違いなども観察できました。加えて一部の参加学生は、自身の髪の毛を使って中腸の綺麗な断面像を作成したり、中腸の間充織層/筋肉層分離にトライしたりしました。これらの実習を通じて、自分たちの手で「本物」の美しさや実験操作の難しさなどを実感してくれたと思います。

 

また今回の実習では、SG参加学生のみならず、参加教員の研究室に所属する学生の参加希望があり、実習を通じて本物に触れる機会の需要の高さを感じました。今後の実習でも、このような要望に上手く応えていきたいと考えています。(文責 高瀬悠太)