第7回MACSコロキウム(2019年2月7日)

第7回 MACS コロキウムでは、𡈽山明氏(地球惑星科学専攻 教授)にご講演いただきました。表題は『~鉱物に耳をあてがう、地球と宇宙が聞こえる~「はやぶさ」サンプルから聞こえてきたこと、「はやぶさ2」サンプルへの期待』です。

講演はまず鉱物についての確認から始まり、それから『はやぶさ』を始めとするサンプル・リターン計画についてご説明いただきました。続いて『はやぶさ』の話に移り、小惑星イトカワへの航跡やサンプル採取の手法、およびサンプルの分析とそれから得られた知見について解説していただきました。とりわけ𡈽山氏が行った X 線 CT 分析では、二通りの異なるエネルギーでサンプルを分析する dual-energy tomography により微小サンプル中の鉱物を特定したことが解説され、その分布を石膏模型にしたものが回覧されました。

これらの『はやぶさ』についての解説を踏まえる形で、後半は『はやぶさ2』についての解説をしていただきました。まず『はやぶさ2』の目的地である小惑星リュウグウの表面や形状などの基本的な性質について、すでに新しい知見が得られていることをお話しいただきました。続いて『はやぶさ2』が現在までに行っていることおよび今後の計画、そしてリュウグウのサンプル分析からわかると期待されていることに触れ、最後に分析の補助として機械学習の援用を模索していることが触れられました。
『はやぶさ2』が2月22日に最初のサンプリングを行うという最新の話題が取り入れられたり、鉱物標本・サンプルの石膏模型の回覧が行われたりと、様々な刺激のある講演でした。質疑応答では十問を超える質問が寄せられ、活発な議論が行われました。

  

 [SG6]「進化ゲーム理論と動物行動への応用」(2019年1月30日)

総合研究大学院大学の大槻久さんに「進化ゲーム理論と動物行動への応用」というタイトルで、大きく分けて前半と後半の二つの話題についてお話しいただきました。

 

前半は、プレーヤー位置間に距離構造が入った進化ゲーム理論について、Wright's island model、Kimura-Weiss's stepping stone modelからより一般のグラフ上の進化ゲーム理論まで、ファージや緑膿菌集団、またそれらが位置する空間構造の調整を寒天で行うという実例を通して、紹介いただきました。また、全プレーヤーのペア間でゲームが行われる場合を記述する各戦略頻度の時間発展方程式を構成する利得行列の補正として、空間構造の特徴量が現れるというご自身の研究結果についても紹介いただきました。

 

後半は, マイコドリ(鳥類)とシクリッド(魚類)の社会集団で見られる順位制についての直感的な理解がしづらい観測事実と、それらをどのようにゲーム理論的なアプローチで理解できるかというご自身の未発表研究についての話題を提供していただきました。観測事実とゲーム理論的アプローチによる結果の間にあるギャップに関して、参加者の様々な質問に答えながら議論を進めていただくことによって、予備知識があまりなかった参加者の理解も深めることができた大変貴重な機会となりました。(文責 太田洋輝)

 

  

[SG8-1]外部講師セミナー「微生物の遊泳術:単細胞でも生き残れ!」(2018年12月18日)

遊泳微生物の流体力学的な研究について、入門的なレビューから最新の研究成果の紹介までしていただくセミナーを開催した。部屋は満員となり、参加した学部学生からも活発な質問がなされるなど、大いに盛り上がった。

 

セミナーではまず、遊泳微生物の流体力学的な研究の歴史的な経緯が紹介され、どの部分に課題があるのかが非常に分かりやすく解説された。次に、その課題に対して石本氏のアプローチとともに、最近の研究成果の詳細が紹介された。精子が卵管の中を泳ぎ卵子を目指すプロセスで、流体力学的な帰結によって何が起こるのかの詳細や、シミュレーションなどから何が新たに発見されたのかが示された。また、そのような数理的な結果がどのような生物学的な機能と結びついているのか、そのような流体力学の利用が生物機能の複数パスの一つとして働いていることなど生物学的な意義に関しても踏み込んだ解説がなされた。最後に、現在進行形の研究を示し、今後の研究の展望を語られた。

 

聴衆は主に物理系と生物系の院生で、学部学生も数名参加した。初歩的な質問にも丁寧に応えていただき、予定終了時刻を過ぎても質疑応答がつづくなど、非常に活発な議論が為されたセミナーとなった。(文責 市川正敏)

  


MACS SG3主催 生物多様性コロキウム「Role of blood flow on endothelial polarity in health and disease」(2018年12月5日)

MACS-SG3では、Max-Planck-Institute for Heart and Lung Researchの中山雅敬博士に「Role of blood flow on endothelial polarity in health and disease」という演題でセミナーをして頂きました。講演は血管の枝分かれ構造の背景原理や血管研究そのものの歴史についての解説から始まり、血管を構成する内皮細胞が持つ2種類の極性(①頂端-基底極性、②血流に対する極性)における細胞極性制御因子群aPKC/PAR-6/PAR-3の役割の解析について話されました。講演の前半では、血管特異的なPAR-3のノックアウトマウスを細胞生物学的手技や血流シミュレーションなどを駆使して解析した所、頂端-基底極性には影響がないが血流に対する極性が乱れていることや、血流に対する極性の乱れとアテローム性動脈硬化症の起こりやすさとの関連性などについて説明して頂きました。講演の後半では、血管特異的なaPKCのノックアウトマウスで観察された「細胞増殖に正に働くVEGFシグナルが多く入っているのに内皮細胞の増殖が減少している点」に注目した解析がAngiosarcomaとの関連性にまで発展した話について、分子メカニズムを中心に説明して頂きました。論文では語られない研究に関連する様々な実体験や実情も話して頂き、聴衆も講演に聞き入り活発な議論へと発展していました。(文責:高瀬悠太)

  

第6回 MACSコロキウム(2018年11月8日)

古澤 力氏
 
高井 研氏
 

第6回MACSコロキウムの前半では、古澤力さん(東京大学大学院理学系研究科物理学専攻/理化学研究所生命システム研究センター)に講演タイトル「生物の状態変化をどのように記述すべきか:実験室進化と理論解析」でお話していただきました。

 

導入部では、後半の高井さんの講演タイトルに呼応するように、「人工システムと生命システムは何が違う?」という問いを提示し、システムの安定性と可塑性こそがあるシステムが生命たる性質であろうという視点を展開した。この背景をもとに、実際の大腸菌の代謝ネットワークを例に、揺らぎに対する安定性と可塑性について、大自由度ネットワークからそれらの2つの性質を適切に記述できる低次元の状態空間を取り出すこと(射影)の重要性を指摘され、以下の古澤さんの研究へ向かう動機とされた。

 

最初に、状態空間の低次元への射影の例として、定常成長細胞において細胞内化学物質濃度の変化率が細胞増殖量の変化率に比例するという理論を提示され、実際にその理論が実験のデータ傾向と一致することを示した。

 

次に、複製細胞のモデルとして、代謝ネットワークにランダム変異をいれて増殖率が高くなるように自然選択を与える数理模型を考える。この系では、十分進化後に系の摂動応答が低次元状態空間に拘束されることを示した。

 

また時間と手間のかかる工程を機械自動化した、大腸菌の進化実験についても紹介された。その実験系では95種類の阻害剤を使用し、阻害剤の生存最大濃度を使って、大腸菌の交差体制・交差感受性と遺伝子発現量との有意な相関、またゲノム配列変化との無相関傾向が見られた報告をされた。

 

表現型のゆらぎと遺伝子型のゆらぎで決まる進化可能条件、現在進行形実験である細胞の生存選択と表現型のフィードバック制御、そして同一種内にとどまらないような細胞状態撹乱を加えたときの系の応答などにも触れられ、最後まで質問が飛び交う白熱した交流となった。

 

 

コロキウム後半では、高井研さん(海洋研究開発機構深海・地殻内生物圏研究分野)に講演タイトル「では、教えてくれ。生命の起源の’生命’とはなんのことだ。’生命’ が何かを知らずに、生命の起源を研究していると言うのか?(海原雄山風に)」でお話していただきました。

 

導入部では、ご自身が「海のNASA」と呼称される海洋研究開発機構の世界でもトップクラスの海洋探査船リストと、それらを持ってしても踏破には程遠いマリワナ海溝探査について、探査当事者でしか知らないような稀有な経験談を繰り広げた。以前は海溝底辺での探査距離限界5mだったが、海溝底辺30万”m”走行を目指し、それに及びはしないものの10万”cm”を達成し、これによってマリワナ海溝には予想よりもはるかに豊富な生態系を持つことを発見したというエピソードについて、ユーモアをふんだんに盛り込んで紹介された。

 

またコロキウム前半の古澤さんの視点とはまた異なる、生命生存環境の極限条件を見極めることにより、生命それ自身の理解にアプローチするという視点の重要性を強調された。実は、温度、pH、圧力、重力に関する生命が生存できる4つの極限条件の世界記録は、高井さんと所属の海洋研究開発機構のグループが見つけている。

 

また、生命生存条件をエネルギーに関する2つの量の関係式で表したMcCollom-Shock予想は定量的な予言ではなかったが、ご自身のグループによってこの枠組みに定量的な予言を与え、かつ約10年にもわたるフィールドワークを通して探査した海底熱水噴出孔のサンプルが、その定量的なMcCollom-Shock予想と矛盾しないことを示した。

 

最後には、生命誕生の必然性についての理解を進めるためには、地球の生命とは異なる生命を見つけること、それが一番期待される土星衛星Enceladusのフライバイ探査の必要性を強調され、そこに至った高井さんの観測事実と仮説の組み合わせについて参加者と白熱した議論が続けられた。(文責 太田洋輝)

  


MACS 特別セミナー 「あなたは転写因子派、エピジェネティクス派? 」(2018年11月7日)

MACS特別セミナーでは、UC IrvineのKen W.Y. Cho教授に「あなたは転写因子派、エピジェネティクス派?」という演題で講演していただきました。

 

脊椎動物の初期発生では、1つの細胞(受精卵)が細胞分裂を経て三つの胚葉(外・中・内胚葉)へと分化していきます。この際、細胞分化が適当に起こってしまうと、きちんとした「からだ」は作れません。つまり、遺伝子発現が時空間的に制御されているはずです。現在、この制御には、「転写因子による遺伝子発現」と「クロマチンのエピジェネティクス」の2つが重要であると考えられていますが、この2つがどのように絡み合っているのかはよく分かっていませんでした。講演の前半では、カエル胚の初期発生に注目し、母性転写因子(卵の中に元からあった転写因子)と胚性転写因子(受精後に新たに作られた転写因子)のゲノム結合、およびクロマチンのエピジェネティクスの3つに注目した解析について話されました。そして、まず母性転写因子群がエンハンサーに結合し、その後にクロマチンの状態が変化して転写が始まることが分かりました。このほか、母性転写因子群の中でもパイオニア転写因子とそれ以外の転写因子との関係性や、発生の進行に伴っていくつかの母性転写因子が同じグループに属する胚性転写因子に置き換わることなど、初期発生過程における転写因子とエピジェネティクスの時空間的な制御の一端を明らかにしました。

 

講演の後半では、マウスの初期発生、特に将来の「からだ」を作る内部細胞塊(ICM)と胎盤などの「からだ」以外を作る栄養外胚葉(TE)とが分離していく過程に注目した解析について話されました。そして、初期発生の制御・安定性における遺伝子発現のゆらぎの重要性について、実験と数理シミュレーションとを組み合わせて説明されました。最後には、細胞分裂のサイクルが長い(12-24 hr/回)哺乳類と、サイクルが短く(30 min/回)多数の細胞がある良性の初期発生のシステムの違いについて考察され、活発な質疑応答が行われました。(文責:高瀬悠太)

  

[SG7]外部講師セミナー(2018年10月9日)

10月9日に東京農工大学の瀧山健准教授を招聘しMACSセミナーでご講演頂いた。氏は運動制御における神経科学研究の新進気鋭の理論研究者である。講演は計3時間の二部構成でお話し頂いた。一部では機械学習の礎として線形回帰周辺を学部生に理解できるようにご説明頂くと共に、それを発展させた氏の研究である運動制御における次元削減のトピックをご紹介頂いた。二部では氏の代表的研究である運動制御における予測的制御モデルをご紹介頂いた。学生達から多くの質問が飛び、大変に活発な議論が行われた。(加藤毅)

  


[SG5]外部講師セミナー「Motoring Along Filamentous Tracks: Rules, Regulations and Control of Traffic in Living Cells 」(2018年9月21日)

インド工科大学のDebashish Chowdhury教授(JSPS招へい研究者として東大に滞在中)に、統計物理学における交通流のモデルと、それをもとにした生物学における”渋滞”などの問題をついて講演していただきました。Chowdhury氏は、統計物理、生物物理などの広範な問題を対象とした理論物理学者で特に交通流の物理学・生物物理学で著名な研究をされています。道路上の自動車の流れの問題は、フィラメント上のモータータンパク質や、DNA上のRNA合成酵素、mRNA上のリボソームの輸送などと類似しており、交通流の物理を生物学の問題に適用することが可能です。講演では、動機としての生物学の背景を簡単に紹介された後、交通流の物理モデルとして25年にわたり研究されてきたTotally Asymmetric Simple Exclusion Process (TASEP)を解説されました。その後、Chowdhury氏自身の研究として、DNA上のRNA合成酵素の”渋滞”や、”衝突”に関する理論研究を紹介されました。実験で観察されている現象、実験と理論との関係などについてさまざまな質疑応答がありました。(文責:高田彰二)

  


[SG3]トリ胚実習(2018年8月6日~8日)

SG3「本物を見て考えよう!:脊椎動物の胚観察から数理の可能性を探る」では、本SGの前期題材論文 ”Villification: How the Gut Gets Its Villi (Science 2013)” で行われていたトリ胚中腸の絨毛形成を観察しました。参加学生たちは自分達の手で、孵卵9〜18日目のニワトリ胚の中腸を切り開き、絨毛の形成過程を観察しました。そして、論文に記されていた絨毛の形成過程を確認できたことに加え、論文では触れられていなかった腸の前側-後側における絨毛形成の違いなども観察できました。加えて一部の参加学生は、自身の髪の毛を使って中腸の綺麗な断面像を作成したり、中腸の間充織層/筋肉層分離にトライしたりしました。これらの実習を通じて、自分たちの手で「本物」の美しさや実験操作の難しさなどを実感してくれたと思います。

 

また今回の実習では、SG参加学生のみならず、参加教員の研究室に所属する学生の参加希望があり、実習を通じて本物に触れる機会の需要の高さを感じました。今後の実習でも、このような要望に上手く応えていきたいと考えています。(文責 高瀬悠太)

  

MACS SG3共催 生物多様性コロキウム「アクトミオシンが駆動する細胞集団運動と組織形態制御」(2018年8月3日)

MACS-SG3では、名古屋大学大学院 理学研究科の進藤麻子博士に「アクトミオシンが駆動する細胞集団運動と組織形態制御」という演題でセミナーをしていただきました。組織形態形成は3つの階層[①各細胞のふるまい、②隣接細胞との協調、③組織の統一性]からなる現象だと考えられます。しかし、各階層に関する解析はよく行われていますが、階層間を繋ぐ解析はまだあまり進んでいません。

 

本講演の前半では、カエル初期胚の脊索形成時に見られる細胞集団運動Convergent Extension (CE)をモデルとした研究成果について説明されました。CEにおけるF-actinの細胞内局在をライブイメージング解析した結果、細胞間境界におけるF-actinの周期的な集積・収縮が観察されました。そこで、その周期性および細胞間の周期のずれの意義について数理シミュレーション解析を行った結果、これらの現象が効率良いCEを実現させていることが予測されました。加えて、F-actionの周期的な集積の分子メカニズムに関しても、Planar Cell Polarity (PCP) pathwayによる制御について説明されました。

 

講演の後半では、創傷治癒時における細胞挙動やアクチン-ミオシン骨格の挙動に注目した解析をお話ししていただき、発生時と(創傷などの)ストレス応答時における違いや共通点などについてディスカッションされました。(文責 高瀬悠太)

  

MACS SG3共催 MACS-SPIRITSセミナー「A unifying theory of branching morphogenesis」(2018年7月27日)

MACS-SG3では、Institute of Science and Technology Austria (IST Austria)のEdouard Hannezo 博士に「A unifying theory of branching morphogenesis」という演題でセミナーをしていただきました。

 

自然界には、サンゴやキノコのような大きなものから体内の肺組織や神経細胞といった小さなものまで、様々なスケールの「枝分かれ構造」が存在しています。しかし、このような枝分かれ構造はどのようなルールで作られているのか?そのルールはどこまで共通しているのか?といった事柄はよく分かっていません。本講演では、マウス乳腺の枝分かれ構造形成過程に注目して、先端の細胞増殖率の定量化や増殖と周囲環境の関連性(他の枝が近くにあるか)などを調べた結果、「伸張」「分岐」「(枝の密集領域における)停止」という3種類の挙動を用いたシミュレーションで、乳腺の枝分かれ構造を環境非依存的に再現できることが分かりました。加えて、外部環境に摂動を与えた際の枝分かれ構造の予測と実際の結果との比較を通じて、本モデルの正しさや3種類の挙動に関わる分子機構の探索が可能であることを説明されました。最後に、腎臓の枝分かれ構造などについても3種類の挙動に基づいたシミュレーションで枝分かれ構造を説明できることを話されました。質疑応答では、本モデルの普遍性や血管やリンパ管などの網目構造の形成ルールなどについて、活発な議論が行われました。(文責:高瀬悠太)

  

第5回 MACSコロキウム(2018年7月3日)

藤井 啓祐氏
 
平島 崇男氏
 

 第5回MACSコロキウムでは、京都大学大学院理学研究科物理学・宇宙物理学専攻の藤井啓祐特定准教授と、京都大学理学研究科地球惑星科学専攻の平島崇男教授のお二方に講演していただきました。

 

藤井啓祐さんには「量子コンピュータ:情報と物理、基礎と応用、理学と工学の交差点」というタイトルで、量子コンピュータについて研究の歴史から原理、他分野とのつながりや現在まで幅広くお話しいただきました。前半は量子コンピュータ研究の歴史に始まり、量子コンピュータの原理と理論的にできることについてご解説いただきました。例として、歴史的にも量子コンピュータ研究の第一期ブームの火付け役といえる素因数分解を行うショアのアルゴリズムを通じて、「量子ビットの内部状態である複素数値ベクトルへユニタリ作用素を作用させて、正答の確率を増加させる」という原理をご紹介いただきました。

 

後半は量子コンピュータの課題とご自身の研究についてお話しいただきました。ゆくゆくは種々の問題で活躍するであろうと予測される量子コンピュータですが、現状様々な困難があり、産学入り混じっての研究開発が行われています。現在のコンピュータとの競争を強いられている面も紹介しつつ、量子コンピュータのシミュレーションを用いたご自身の研究、他分野とのつながりについてもご紹介いただきました。

 

ここではごく一部の話題を紹介するにとどめていますが、実際の講演では非常に広範な話題が触れられています。またそれぞれの話題に興味を持った参加者向けに、多くの解説記事をご紹介いただいていました。質疑応答や懇親会では、分野への関心の高さを裏付けるように活発に議論が行われました。(文責 石塚裕大)

 

続いて、京都大学理学研究科地球惑星科学専攻の平島崇男教授に「沈み込み帯で活動する水の挙動の理解へ:青色片岩は有馬型熱水の起源」というタイトルでご講演して頂きました。講演の前半では、平島さんが長年研究されてきた超高圧変成岩(地殻物質が深さ100-140km以深の所で変性し、再度地表まで上昇したもの)に関する話をして頂きました。1980年代前半までは、軽い地殻物質はマントル深部には潜らないと考えられていたそうです。しかし、大陸と大陸とが衝突するようなエリアで、高圧相で形成されるコース石やダイヤモンドが含まれた変成岩(=超高圧変成岩)が次々と見つかったことから、地殻物質が100km以深まで沈み込み、再び地表まで戻るという大規模な物質循環が普遍的に起こっていることが明らかになりました。

 

続いて講演の後半では、岩石学の分野横断型研究として始まった、岩石に含まれる水成分(含水珪酸鉱物や流体含有物)に注目した、地下深部流体の活動実態解明について説明して頂きました。そして、成果の一部として、火山地帯起因でない熱水である有馬型熱水の成分が、四国や和歌山の三波川変生帯で形成された変成岩の青色片岩(流体含有物)の成分と類似していることについて話して頂きました。

 

講演は、岩石の展示や平島さんの実体験エピソードを交えつつ進行し、質疑応答や懇親会の時間ではフィールドワークの多彩な現場エピソードや成果についてさまざまな議論が行われました。(文責 高瀬悠太)

   

  


[SG6]外部講師セミナー「霊長類学という『方法』: ボルネオ熱帯林に赴くオランウータン研究者の場合」(2018年6月6日)

京都大学理学研究科生物科学専攻の田島知之さんに、霊長類学という「方法」と題して、霊長類に属する動物の群れの様式がどのような環境要因と個体間関係性から決まっているかについて、古典的な文化人類学や京都学派の自然人類学から現在の知見までの歴史を振り返りながら、解説していただいた。

 

またご自身の研究対象であるボルネオ島に住むオランウータンについて、フィールドワーク特有の研究準備とは何か、そしてそこから実際得られた、アンフランジの下位オス(フランジは、上位オスのことを指す)が子孫を残している証拠を突き止めた研究を紹介していただいた。

 

セミナー後には、ゲーム理論の枠組みでより数理的に整理するにはどうしたらいいか参加者と意見交換も盛り上がり、今後のSG活動でより深く考察していくことになった。(文責 太田洋輝)

  


[SG5]外部講師セミナー「Efficiencies of small machines: molecular design principle, universal inequalities, and physical laws 」(小さなマシンの性能をめぐって:分子デザイン、普遍不等式、物理法則 )(2018年5月11日)

「小さなマシンの性能をめぐって:分子デザイン、普遍不等式、物理法則」という題目で佐々真一さん(京都大学大学院 理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻)に講演していただきました。

 

「熱機関を典型例とするマクロ機械」と「細胞内ATP合成酵素の構成要素であるF1モーターを典型例とするミクロ機械」の比較から、マクロ機械の基本概念である仕事と熱をミクロな「ゆらぐ」世界でどのように定式化するべきか、という問いの提示から講演は始まりました。

 

続いて、ゆらぐ系の記述として、単純なLangevin方程式とマルコフジャンプ過程を使って、F1モーターとそのプローブの時間発展の数理記述を紹介しました。また、Langevin方程式による記述での熱力学第二法則を満たすようなゆらぐ熱と仕事、そしてF1モーターのマルコフジャンプ過程の遷移率が熱力学第二法則を満たすための条件を与え、結果としてF1モーターとプローブの全系で成り立つ、熱と仕事の関係式を示しました。次に実験的にプローブから出る熱を測る理論枠組を説明し、それを使って実験(他の実験グループ)から測った結果が、F1モーターから出る熱が0という意外な結果を導いたこと、その結果と整合するF1モーターの具体的な確率過程を構成したという複数のグループとの共同研究の結果を紹介しました。 

 

最後に、最近発見されている、ゆらぐ系で熱力学第二法則を超えて成り立つ種々の普遍不等式を統一的に導出する方法についても解説されました。講演後も、参加者と普遍不等式と生物の進化の関係性について1時間を超える議論が続き、今後の研究交流も期待される有意義なイベントとなりました。

 

(文責: 太田洋輝[原文]、佐々真一[推敲])

  


第4回 MACSコロキウム・平成30年度MACS学生説明会(2018年4月27日)

立川裕二氏による講演の様子
 
100名を越える参加がありました。
 
國府寛司MACS運営委員長による事業説明

第4回のMACSコロキウムでは、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構教授の立川裕二氏にご講演いただきました。タイトルは「ある場の量子論屋の見た数学」です。立川さん自身の専門分野である場の量子論と、それを研究する上での数学との関わり方について、平易な言葉でご解説いただきました。

 

まず第一節「場の量子論の数学」は、場の量子論という分野についての簡単な解説の後、その成功例や他の物理の分野との関わりをいくつか挙げることから始まりました。初めに量子電磁力学から、電子の異常磁気モーメントの理論計算と実験結果の符合を、次に量子色力学(格子量子色力学)の精度の改善を取り上げました。これらは素粒子物理の例でしたが、物性物理からの例として、相転移の臨界点の記述に共形場理論が用いられることや、トポロジカル物性において場の量子論が多用されることにも言及します。

 

これらの例から、場の量子論が「よく研究されている」「数値を精度よく計算できる」「実験結果とよく符合する」という特徴をもつと結論づけます。その一方で、量子色力学の数学的定式化が極めて有名な懸賞問題になっている(Yang—Mills方程式と質量ギャップ問題)ことなどから、場の量子論は数学的定式化が不完全であるという認識を示しました。実際にこれまで数学者、理論物理学者たちが場の量子論の定式化をどう試みてきたかを紹介し、第一節の「場の量子論の数学」の締めくくりとなりました。

 

第二節では「場の量子論における数学」と題して、研究過程で実際に必要になった数学についてお話いただきました。とりわけ最近必要になったというコボルディズム群については、その動機となる SPT 相 (symmetry protected topological phase) の分類との関連についても骨子をお話くださいました。「これらの数学は、学生当時には必要になるとは思いもしなかった」という回想を踏まえ、学生からよく訊かれる質問だという「場の量子論を研究していくにあたってどの数学を勉強すればいいか」に対して、「その場その場で必要な数学を勉強していくという方針がいいだろう」と答えています。

 

最後の第三節では「場の量子論からの数学」と題し、場の量子論からどのような数学が生まれるか、という観点からお話いただきました。初めに、数学と弦理論の相互作用の例として、モンスター群と J 関数という純粋に数学的動機で発見された構造どうしの繋がり(ムーンシャイン予想)が弦理論から現れる構造を通じて証明されたことを挙げます。これに類似する立川さん自身の経験として、別の設定で弦理論に現れた関数にムーンシャイン予想の類似を考える江口=大栗=立川予想、およびその部分的解決を紹介しています。別の例では、ある6次元の場の理論から現れる楕円ガンマ関数の関数等式が同時期に数学者により証明されていたことをご紹介いただきました。これを踏まえ、第一節で述べられた場の量子論の数学的定式化がうまくいけば、より多くの非自明な数学的帰結が得られるのではないか、という展望を開き、聴衆への希望として述べる形で講演が終わりました。

 

実際の講演では、より多くのトピックを非常にユーモラスな語り口でご紹介いただいています。続く質疑応答では専門的な質問にも多く答えていただいたほか、懇親会でも学生と活発に議論を続けてくださいました。

 

立川さんの講演に続いて、平成30年度 MACS 学生説明会が開かれました。会の初めに國府寛司 MACS 運営委員長から MACS 事業についての解説があり、続いてスタディーグループへの参加登録方法と、今年度に提案のあった各スタディーグループからの内容や予定についての説明がありました。(文責 石塚裕大)