元地球惑星科学専攻所属・名誉教授 田上 高広
私は典型的なアポロ世代です。9歳の時に人類が初めて月面に着陸するのをライブで見て(といっても、テレビで「生音声+想像で制作されたアナログ画像」を見ていたのですが)、地学に魅せられました。私の地学人生の出発点ともいえる出来事でした。その頃の私は、成人してから火星調査隊に参加し、砂嵐の中で火星人を探索するつもりでした。今となっては叶わぬ夢です。
時が流れて、京大に入学し、大学院で放射性核種を用いた年代測定と同位体分析による地球変動の研究を始めました。特に、年代測定計ごとに閉鎖温度が異なることを利用して岩石の温度履歴を分析する「熱年代学(Thermochronology)」を中心に研究してきました。この方法を用いると、山が出来てから、雨風などに吹かれて侵食され、海の中へ堆積物として消えていくのに、どれだけの時間がかかるかを知ることができます(1)。私が大学院で研究を始めた頃はちょうど熱年代学の勃興期でしたので、新しい研究分野が発展していく様子を目の当たりにし、またそれに自分たちも参加できて刺激的な日々でした。
さらに時が流れて、定年退職しましたが、コロナ禍が原因で、誘致した熱年代学国際会議“Thermo2024”が当初の予定より一年遅くなり今年の9月に開催されるため、今もまだ忙しくしています。秋風が吹く頃には、それも終わり自由の身になるのか未だにわからず、“The answer is blowin’ in the wind.”という心境です。とはいえ、これからの人生も風に任せて、楽しく過ごしたいと思っています。
末筆となりましたが、好きな研究を好きなだけできる理学研究科のこの素晴らしい雰囲気が、これからも維持されていくことを心より願います。本当に長い間ありがとうございました。
参考文献 (1) 田上高広「私が見てきた熱年代学の変遷」FTニュースレター,印刷中.

