元化学専攻所属・名誉教授 寺嶋 正秀

画像
5.名誉教授随想_寺嶋正秀_写真

 2025年3月31日をもって理学研究科を定年退職しました。新任の講師として京都大学に赴任したのが1990年7月だったので、およそ35年間お世話になったことになります。それ以前にも、学生として京都大学理学部・理学研究科で9年間過ごしてきたので、京都大学はまさに自分の故郷に思えます。
 大学入試でなぜ京大理学部志望だったかを思い起こせば、小さいころから野山を駆け巡っていたためか自然が好きで、理学部を選ぶ人の多くがそうなのかもしれませんが、自然の不思議を理論的に理解することに興味があり、理学部以外の選択肢は全くありませんでしたし、また京大の自由な学風、理学部の「ゆるやかな専門化」にひかれて受験しました。実際、大学に入学してからも志望分野がいろいろと移り変わったので、この選択は正解だったと今でも思っています。また、研究室に配属されてからも、当時の研究室の部屋には鍵は全くなく、一日中いつでも開けっ放しで、どの建物でも何時でも自由に出入りできるというまさに自由な大学ということを実感しました。
 京大にスタッフとして戻ってきてからでも、自分しかできない研究にこだわり、はやりの分野にはあえて手を出さずに、誰も見たことがない自然の現象を発見・解明できたし、新しい境地を開けたかなと思っています。まさに自由な学風のおかげで好きな研究を楽しめて、あっという間に過ぎた35年間でした。
 まだ論文で公表してないデータもたくさんあり、高校化学の教育関係や、いくつかの講演や評価関係の依頼も来たりして、退職後の実感があまり沸いていないのが現状ですが、時間が潤沢にある今の生活を楽しみたいと思っています。
 振り返ると、京大理学研究科は(少なくとも当時は)本当に特別な大学であったと思います。現在の日本の大学は、掛け声では特徴を出せといわれている割に、本質はどこを切っても同じ金太郎飴のように見えて、なかなか難しい時代だとは思いますが、私が憧れた京大の学風は是非継続していっていただきたいと思います。