-ゲノムの視点から環境適応のメカニズムに迫る-
近年のゲノム研究の進展により、さまざまな生物のゲノム配列が解析されていますが、環境適応のメカニズムは未だ多くの謎が残されています。本学では、1954年から61年間、1500世代に渡って暗闇でショウジョウバエが継代飼育され、この「暗黒バエ」は環境適応を研究するためのユニークな生物となっています。
布施直之 生命科学研究科研究員、阿形清和 本研究科生物科学専攻教授らの研究グループは、国立遺伝学研究所との共同研究により、暗黒バエのゲノム解析を行い、環境適応に関わるゲノム配列を絞りこむことに成功しました。
この研究成果は、2016年2月1日付けの米国科学誌「Genes Genomes Genetics: G3」に公開されました。
研究者からのコメント
次世代シーケンサーを用いることによって、ゲノムの視点から環境適応のメカニズムにアプローチできる時代になりました。私達は、暗黒バエというユニークな生物を使って、環境適応のメカニズムを調べています。今回の論文では、約千匹の混合集団のゲノムを次世代シーケンサーで読み、集団内のゲノム頻度を測定することで、暗黒バエの適応に関与するゲノム配列を絞り込むことに挑戦しました。今後、ゲノム編集技術などを用いて、ゲノムと環境適応を直接結び付ける研究に繋げていきたいと思います。
概要
1954年から暗闇で継代された「暗黒バエ」は、眼が無くなるというような大きな形態的変化がなく、一見、普通の野生型ハエと変わりません。しかし、暗黒バエは、暗所で野生型ハエより優位に子孫を残すことから、暗闇に適応していることが示唆されました。以前の研究では、次世代シーケンサーを用いて、暗黒バエの全ゲノム配列を決定し、約22万の1塩基多型(SNP)を同定しました(Izutsu et al., PLoS ONE (2012) 7, e33288に発表)。しかし、この段階では、どのSNPが暗闇適応に関与するのか明らかではありませんでした。そこで、暗黒バエが暗闇で優位に子孫を残すという性質を利用して、暗黒バエのSNPを再選択する実験を行いました。
本研究では暗黒バエと野生型ハエを1対1で混合した約1000匹の集団を明所と暗所で継代しました。継代を繰り返す中で暗黒バエと野生型ハエのゲノムは混ざり合い、暗闇適応に関わるSNPは、暗所の集団で頻度が上昇することが予想されます。そこで、0、22、49世代目の集団のゲノムを解析し、暗黒バエSNPの頻度変化を調べました。結果、約6%のゲノム配列が暗所で選択されることがわかり、暗闇適応に関わる候補遺伝子として84遺伝子が同定されました。この中には、嗅覚に関わる遺伝子や概日リズムに関わる遺伝子などが含まれていました。
詳細は、以下のページをご覧ください。
※参考:暗黒バエの研究について朝日新聞に掲載されました。