目次


開催案内

日時

2022年4月18日(月)15:00〜17:40
 

開催形式

Zoomオンライン配信
https://forms.gle/wrC7RjyfRwCikUoP6

登録されたアドレスにID・パスワードを送付いたします。

 

プログラム

15:00〜16:00

第19回MACSコロキウム

『形態形成の多細胞力学シミュレーション』

 講演者:井上 康博 博士(京都大学大学院工学研究科マイクロエンジニアリング専攻)

多細胞生物の器官の形は、その機能発現と深く関わっており、その形の成り立ち(形態形成)には、個々の細胞が生み出す力が重要な働きをしています。近年、形態形成を多細胞の力学をもとに、計算機を用いたシミュレーションで解析できるようになってきました。多細胞力学シミュレーションの概要、現状や課題について紹介します。

16:05~17:40

 

2022年度MACS学生説明会

16:05〜17:00 スタディグループ2022の代表教員・参加教員による企画説明(各5分程度)

 

・SG2022-1データ同化の数理と応用:理論モデルとデータをつなぐデータサイエンス

代表教員:坂上 貴之(数学・数理解析専攻)

・SG2022-2XRで見る・3Dで触る先端科学

代表教員:稲生 啓行(数学・数理解析専攻)

・SG2022-3生命のダイナミクスを観て(観察)考える(数理)

代表教員:高橋 淑子(生物科学専攻)

・SG2022-4自然科学における統計サンプリングとモデリング:数理から実践まで

代表教員:林 重彦(化学専攻)

・SG2022-5理化学研究所と MACS を繋ぐパイプライン

代表教員:小林 俊介(数学・数理解析専攻)

・SG2022-6「かたちづくり」の数理を発見しよう!

代表教員:市川 正敏(物理学・宇宙物理学専攻)

・SG2022-7疾患における集団的細胞挙動の数理モデルの開拓

代表教員:Karel Svadlenka(数学・数理解析専攻)

・SG2022-8コンピュータでとことん遊ぶ

代表教員:藤 定義(物理学・宇宙物理学専攻)

・SG2022-9バクテリアと数理をつなぐ

代表教員:佐々 真一(物理学・宇宙物理学専攻)

・ SG2022-10数学者と学ぶ量子力学

代表教員:楠岡 誠一郎(数学・数理解析専攻)

・ SG2022-11ソースコードから始まる異分野交流

代表教員:伊丹 將人(物理学・宇宙物理学専攻)

 

17:10〜17:40 各スタディグループの個別説明

※スタディグループ(SG)参加対象:

主に理学部・理学研究科の学生が参加対象です。それ以外の学生の登録も可能ですが, 参加希望者多数の場合は調整の可能性があります。
 

備考

◎本コロキウム・説明会は理学部・理学研究科の学生・教職員が対象ですが、京都大学・理化学研究所に在籍されている方はどなたでもご参加いただけます。
◎学内教育プログラムに関するイベントであるため、学外・一般の方の登録は原則不可としております。ご登録いただきましてもリストより削除させていただくことがあります。
◎なお、MACSコロキウムの講演は講師の先生の許諾が得られた場合、後日京都大学OCW(YouTube) に公開されますので、そちらをご覧いただきますようよろしく御願いします。
http://www.sci.kyoto-u.ac.jp/academics/programs/macs/archives.html
◎コロキウムや募集説明会に参加できなくても、スタディグループへの参加登録は可能です。後日、説明会で使用した資料が以下に掲載されますので、ぜひご参照いただき参加登録をご検討ください。
http://www.sci.kyoto-u.ac.jp/academics/programs/macs/sg/sg2022/
◎問い合わせ先:macs * sci.kyoto-u.ac.jp(*を@に変えてください)

 


講演動画

『形態形成の多細胞力学シミュレーション』井上 康博氏

 


開催報告

 2022年度初回のMACSコロキウムでは、井上康博博士(京都大学大学院工学研究科マイクロエンジニアリング専攻)に「形態形成の多細胞力学シミュレーション」というタイトルで講演していただきました。

 講演は計算力学における粒子法の説明から始まりました。計算力学とはエネルギー保存則などの力学原理を満たす方程式をもとに計算機シミュレーションで現象を解析する分野で、粒子法とは複雑な物体を粒子の集まりとして表現することで複雑な物体の 運動を記述する方法です。

 続いて、粒子法を多細胞系の形態形成に適用した多細胞力学モデルの説明がなされました。多細胞力学モデルでは、多細胞系の状態を頂点と辺からなるネットワークで表現し、頂点の運動を適切なエネルギー関数を最小化する方程式で記述します。ネットワーク構造自体の変化も考慮することで、細胞増殖や細胞配置換えも表現できるモデルになります。このモデルでは、エネルギー関数を工夫することで、上皮細胞の頂端(アピカル)側に収縮力が発生するアピカル収縮という現象や、周囲組織・基質による面外変位の抑制によってパターン形成が起こる現象を再現できます。

 最後に、アフリカツメガエルの神経管の形態形成に対する多細胞力学シミュレーションの説明がなされました。実際の現象をモデルで解析する際は
 1.実験結果を定量的に再現するモデルを作る「真似る」
 2.モデルから得られる摂動応答の予測を実験で検証する「確かめる」
 3.様々な条件下でシミュレーションを行い、多細胞挙動を観察する「予測する」
の三段階を経ることになります。第一段階では、神経管の形態形成において細胞伸長・アピカル収縮・細胞移動という3つの細胞活動が重要であることが実験から示唆されているので、この3つの細胞活動をエネルギー関数で表現し、実験結果を再現するようにパラメータを決めています。第二段階として細胞伸長を抑制したシミュレーションを行うと内腔が形成されることが分かり、この現象が実験でも再現されたため、モデルは信頼できることが確かめられました。細胞伸長が抑制されても神経管自体は 形成されるため、細胞伸長は形態形成にとって必要不可欠ではないことも分かります。第三段階では細胞外基質の弾性率を変化させたシミュレーションを行い、細胞伸長があるモデルはないモデルよりも弾性率の擾乱に対して頑健であることが予測されました。つまり、多細胞力学シミュレーションによって細胞伸長の意義が明らかになりました。

 講演後の質疑応答では、多細胞力学モデルの詳細や、アフリカツメガエルの神経管の形態形成における細胞移動の意義などについての議論で盛り上がりました。
(文責:伊丹將人)