[SG6]外部講師セミナー「Dynamic Signatures Generated by Regulatory Networks」(2018年3月5日)

遺伝子制御ネットワークの数理的な研究について、生物学的な問題意識との対応がわかりやすい形で、2つの連続講演セミナーを開催した。

 

前半はKonstantin Mischaikow氏に、遺伝子制御ネットワークをどのように少数パラメータの数理モデルで表現するか、そしてDynamic Signatures Generated by Regulatory Networks (DSGRN)という手法を使って、どのようにすべてのパラメータ領域にわたって、振動、2重安定性や履歴依存性等の定性的振る舞いを明らかにするかを説明していただいた。

 

後半はTomas Gedeon氏に、前半の枠組みを応用する例題を紹介していただいた。例えば、マラリア原虫の遺伝子制御ネットワークを、「実際の患者の遺伝子発現の時系列データへの整合性」と「パラメータ変化に関するネットワークの振る舞いの頑健性」から推定する方法について説明していただいた。推定されたネットワークの性質や、得られた結果が生物学へどのようなフィードバックがあるかにも触れ、参加者とも今後の展開について様々に議論が行われる貴重な機会とすることができた。(文責 太田洋輝)

 

  


第3回 MACSコロキウム・平成29年度MACS成果報告会(2018年2月23日)

高田彰二教授による講演
 
成果報告会の様子

第3回MACSコロキウムでは、京都大学理学研究科生物科学専攻の高田彰二教授に「生体分子モーター運動の数理とシミュレーション」というタイトルで講演していただきました。

 

まず、自動車に使われているモーターとミオシンなどの生体分子モーターとの相違点の確認と、生体分子モーター動作機構の一つであるミオシン歩行に関して、実験と分子シミュレーションから現状得られている知見を説明していただきました。最近の結果として、ミオシンの歩行を2本の”足”の状態に関する確率過程としてどのように記述することができるか、またその状態へどのように進化していくかという問題へ挑戦するお話しもしていただきました。

 

また、他の生体分子モーターの例としてDNAのヌクレオソームについても挙げられ、モーターの動作機構がミオシンのような歩行型ではなく、尺取虫型であるということを、分子の状態変化の観点から明快に説明していただきました。このコロキウムの特徴となりつつある、聴衆の複数専攻分野を反映した様々な角度から専門的な質疑応答が活発に行われました。

 

その後行われた平成29年度MACS成果報告会では、各スタディグループの参加学生の代表が今年度の活動と成果について発表しました。成果報告会の資料は「活動報告」のページからご覧いただけます。(文責 太田洋輝)

 

  


[SG9] トリ胚実習(皮膚組織の培養実験による羽原基観察) (2018年2月13日〜15日)

スタディグループ9「本物を見て考えよう!:脊椎動物の胚観察から数理の可能性を探る」では、本SGの後期題材論文 ”Emergent cellular self-organization and mechanosensation initiate follicle pattern in the avian skin (Science 2017)” で行われていたトリ胚皮膚組織の培養実験を試みました。参加学生たちは自分達の手で、孵卵6日目のニワトリ胚を解剖し、背中の皮膚組織(表皮+真皮)を切り出し、ディッシュ上で培養しました。そして、細胞の凝集度に影響を与える薬剤を添加し、羽原基(Feather bud)が形成されるか、形成される場合の分布パターンはどうなるのか、を観察しました。

 

実際に皮膚組織の切り出しを試みると、胚が小さくて切り出しにくい、皮膚組織の下にある脊椎骨や肋骨が上手く剥がせないなど、皮膚組織のみを培養するのはなかなか難しかったようで、論文の図では簡単に示されているデータの裏に、実験の難しさが隠れていることを体感したようです。皮膚組織の培養そのものも一筋縄にはいかず、培養した組織全体で羽原基が観察される、とまでいきませんでしたが、培養2日目に羽原基のパターンが部分的に形成され、その形成パターンが薬剤によって変化することが観察できました(写真)。

 

今回の実習経験を通して、参加学生たちが自分たちの手で「本物」を導く難しさや成功の醍醐味などを実感してくれたと感じます。(文責 高瀬悠太)

   


   

[SG6]外部講師セミナー「発生のしくみを人工遺伝子回路で再構成する」(2018年1月30日)

理化学研究所生命システムセンターの戎家美紀さんに来ていただき、「発生のしくみを人工遺伝子回路で再構成する」というタイトルで講演していただきました。2000年に発表されたRepressilatorは、人工的に一つの細胞内の遺伝子制御ネットワークを構成し、細胞の振動状態を作り出した研究で、構成的生物学という分野が始まったきっかけの一つです。その後の発展として、自発的に遺伝情報を増やしそれを分配して複製する「人工細胞」など、この分野の研究の発展を視覚的にわかりやすく説明していただきました。これを踏まえた次のステップとして、ご自身の研究である、Delta-Notchを用いた人工的な細胞間相互作用を導入して、細胞集団を分化させるという研究を紹介していただきました。また、未だ達成されていない、人工的遺伝子制御ネットワークとそこから導入される細胞間相互作用によって、Turing パターンの構成に挑む研究も紹介していただきました。発生学、分子生物学や数理系の研究者から常に様々な質問が飛び交う中、それぞれに戎家さんが的確に説明をしていただき、貴重で有意義な交流となりました。(文責 太田洋輝)

   

 


第2回 MACSコロキウム「数理から生物多様性まで-同時にはめったに聞けないおもろい話-」(2017年12月26日)

三好 建正氏
 
幸島 司郎氏

第2回MACSコロキウムでは、「数理から生物多様性まで—同時にはめったに聞けないおもろい話—」というタイトルで、理化学研究所計算科学研究機構データ同化研究チームチームリーダーの三好建正さんと、京都大学野生動物研究センター教授の幸島司郎さんのお二方に講演していただきました。

 
* * *
 

三好建正さんの講演では、天気予報にデータ同化がどのように活かされてきたのという点から説き起こし、データ同化の「カオス同期」としての数理的背景を述べ、現在、三好研究グループが行っている京コンピュータよる流体方程式の高精細シミュレーションとPhased Array Raderの高精度な計測技術をデータ同化によって融合させることで,数分間隔という超短時間の局地豪雨(ゲリラ豪雨)予測が可能になったという画期的な研究成果が紹介されました。また、計算機シミュレーションとデータ科学の織りなす新しい理学分野の基本リテラシーとしての重要性から、MACSプログラムでデータ同化のスタディーグループを企画して、その中でデータ同化の学生向けの講義やセミナーを行っているなど、本学における教育面への波及とその成果についても触れられました。 データ同化は気象分野にとどまらず「高精細シミュレーション」と「さまざまな計測」という一般的な理論的枠組みで実現できるという数理の持つ水平展開力を活かした学際分野です。実際、三好グループでは、古気候復元の問題やシベリア植生の問題などへのデータ同化研究を行っており、その研究は幅広く展開しています。これはまさに数理がつなぐ諸分野研究への展開の姿であり,MACSの目指す1つの姿でもあります。最後に講演後の質疑応答時間の中で,「同化とは何かを取り込むということを意味するが、データ“同化”とはどういうイメージになるのか」という観点で議論が行われ、「データを“消化する”シミュレーション」という異分野交流ならではともいえる面白いキーワードが飛び出すなど、講演は盛況でした。(文責 坂上貴之)

 

幸島司郎さんの講演は、京大フィールドワーク研究の伝統再生という、京大野生動物研究センター設立経緯の話から始まり、幸島さんが行ってきたフィールドワーク研究成果が紹介されました。まず、京大山岳部時代に雪山で虫を見つけたことから始まった雪氷生物学の話では、ヒマラヤ雪山で発見した虫(ヒョウガユスリカ)の生態調査を通じて、「氷河にも生態系があること」を発見したことを話されました。加えて、氷河生態系研究の重要性について、生態系理解に加えて、アイスコア(氷河から採掘された氷の柱)内の雪氷生物の分析によって年代推定や当時の環境推定ができること、氷河融解要因の理解(雪氷生物が氷河表面に色をつけることで氷河融解を促す)に繋がることなどを説明されました。このほか、イルカの睡眠の話題では、イルカは泳ぎながら片目を閉じて眠ることや片目だけでも周囲を警戒できるための個体・集団行動をとっていることを、ヒトの白目に関する話題では、他霊長類と比べてヒトの目は横長な形で白目があるなどの特徴を持つことや種内コミュニケーションにおけるその意義について、それぞれ説明されました。講演は分野の枠を超えて盛り上がり、その後の質疑応答や懇親会の時間ではフィールドワークの多彩な現場エピソードや成果についてさまざまな議論が行われました。(文責 高瀬悠太)

     

  


[SG6]外部講師セミナー「細胞を数理で描く」(2017年12月19日)

「細胞を数理で描く」と題して、二人の講演者に最先端の研究についてお話しいただきました。前半は柴田達夫さんで、上皮細胞シートの一方向運動をどのように数理モデリングするかという観点から複数の話題を提供いただきました。例えば、ショウジョウバエの発生途中の蛹段階で外生殖器(上皮細胞シート)が360度回転する現象が、単純な上皮細胞の形に関するポテンシャル緩和ダイナミクスと細胞接着のつなぎかえルールから現れるシミュレーションを通して理解できることを示し、そこで得られた理論的予言も説明していただきました。

 

後半は望月敦史さんで、最初に、広いクラスの化学反応ネットワークに対して、定常解に着目した場合に成り立つ「限局則」と、そこから見えてくる化学反応ネットワークの「入れ子的緩衝構造」について一般論と例題を通して説明していただきました。続いて、最新結果の一つとして「入れ子的緩衝構造」を反映した化学反応ネットワークの分岐解析手法とこれからの発展性についても触れていただきました。

 

2つ合わせて2時間を超えるセミナーとなりましたが、講演途中でも、ある専門分野を背景にもつ参加者の質問が、他分野を背景にもつ参加者の質問を促しながら、密度の高い多分野交流になりました。(文責 太田洋輝)

  


第1回 MACSコロキウム「大質量星爆発の数理」(2017年10月6日)

 
長瀧重博氏(左)と司会の佐々真一教授(右)

第1回MACSコロキウムでは、理化学研究所 数理創造プログラム(iTHEMS)副プログラムディレクターである長瀧重博さんに「大質量星爆発の数理」というタイトルで講演をしていただきました。大質量星が超新星爆発を経て、ブラックホールや中性子星になる過程を、身近な物を使った比喩とコンピュータを使った数値計算を交えながら平易に解説していただきました。

 

また今年のノーベル物理学賞の受賞理由となった、ブラックホール合体による重力波の観測、そしてまだ観測されていない**中性子星合体の可能性についても触れていただきました。このような現象は、私たちとあまり関わらない遥か遠い場所の出来事に聞こえるかもしれませんが、最近の研究ではアクセサリーなど身の回りにある鉄より重い元素は、中性子星合体によって作られたということが有力な説となっているそうです。理学5専攻から幅広く聴衆が集まり、講演中から様々な視点から質疑応答が行われ、とても有意義なコロキウムとなりました。

 

**:コロキウム開催日の2017年10月6日時点では、中性子星合体による重力波観測の公式発表はありませんでしたが、2017年10月16日に実際に観測されたという公式発表がありました。

(文責 太田洋輝)

   

  


[SG2]外部講師セミナー「情報幾何学入門-幾何学者から見た情報幾何学」(2017年9月28日・29日)

スタディーグループ2「イメージングと数理の融合:動きや形の定量とモデリング」では、名古屋工業大学の松添博教授をお招きし、情報幾何学のセミナーを2日間にわたって行いました。なお、セミナー内容の詳細は、下記リンクから講義スライドのファイルをご覧ください。

 

初日のセミナーでは、1.多様体の速習、2.統計モデルの幾何学、3.双対接続と双対平坦空間、4.最尤推定量の幾何学について3時間程度の説明がなされたのち(参照:170928kyoto-handout.pdf)、擬似スコア関数とプレ・コントラストについてお話がありました(参照:170928quasi-score.pdf)。途中、選挙の投票遷移確率の推定など時事ネタを踏まえたお話しがあり、情報幾何学が扱う問題の具体的な説明がなされました。2日目のセミナーでは、統計多様体の幾何学と異常統計についてお話がありました(参照:170928anomalous-handout.pdf)。べき型統計分布に対してq-正規分布を用いる話や、実例として医用画像処理の研究について紹介していただき、情報幾何学について実感の湧くセミナーとなりました。

 

セミナーへの参加者は22名で、理学研究科以外にも工学研究科やウイルス・再生医科学研究所、医学研究科などから参加者が集まりました。情報幾何学への関心の高さが表れたセミナーとなりました。(文責 平島剛志)

 

[SG9] ニワトリ胚の羽芽(feather bud)発生観察 (2017年8月4日)

スタディグループ9「本物を見て考えよう!:脊椎動物の胚観察から数理の可能性を探る」では、本グループの教材論文における研究対象であったニワトリ胚の羽芽(feather bud)の発生を実際に観察しました。

 

参加学生たち(主に学部3回生)は、自分達の手で孵卵6〜16日目の本物のニワトリ胚を解剖し、背中や太もも部分の表皮における羽芽の発生過程を自分たちの手と眼で観察しました。加えて、後期に行う実験に向けた、トリ胚表皮の培養にも挑戦するなど、各々が有意義な時間を過ごしました。(文責 高瀬悠太)

 

 

 

 


[SG3] バーチャルリアリティ体験・ガイダンス(2017年8月1日)

スタディーグループ3「VRで見る・3Dで触る先端科学」では、ガイダンスを行い、実際にVR機器を体験してもらい、それらを利用して様々な対象を可視化する為の基礎について解説しました。

 

まず、現在のバーチャルリアリティ (VR) の主流である、ヘッドマウントディスプレイ (HMD) 型のVR機器を実際に装着してもらい、VRの世界を体験してもらいました。HMD自身に搭載されたジャイロスコープや加速度計だけでなく、外部に設置したセンサーやベースステーションを用いて赤外線でHMDやコントローラの位置や向きを測定するので、実際にVRの世界に没入して見回したり、動きまわったり、ものを掴んで動かしたりすることなどができます。当日はHMD標準のチュートリアルなどで基本的な操作方法を学び、SG3の代表教員・稲生啓行講師が作成した4次元のフラクタル集合 (複素2次元の力学系のジュリア集合) を観察するソフトや他のアプリなども使って、実際にバーチャルの世界に入るとはどのような感じで、その中でどのように動いたりコントローラで操作したりできるのかを実際に体験してもらいました。空中に絵を描いたり、世界中を飛び回ったりと色々なものを試してみることで、これから自分で何か作る上でのヒントが得られたのではないかと思います。

 

ひと通り参加者に体験してもらったあとで、講義形式でガイダンスを行いました。9月の最終週にまた集まって実際に色々作成してもらう予定になっているので、その準備として、以下について解説し、一部については実際に各自のPCでもやってもらいました。

 
  • よく使われている簡単な3Dモデルのファイル形式 (STLファイル、OBJファイルなど) の概説。
    • VRで観察したい対象をこのような形式のデータとして出力することで、色々なソフトウェアで扱うことができます。
  • 数式処理ソフトや3D分子シミュレーションソフトなどを用いて、簡単な3Dモデルの作成。
    • 2変数関数のグラフや球面のような式で書けるものや、蛋白質構造データバンクなどで公開されている分子構造のデータなどは簡単に3Dモデルにすることができます。
  • Unity を用いて、これらのVR機器を利用したソフトを作る為の基礎。
    • Unity は様々なVR機器に対応した、統合開発環境を内蔵したゲームエンジンです。これを使うことで簡単にVR機器に対応したソフトウェア (もちろんゲームに限りません) を作ることができます。各VR機器を使う為の最初の設定や、Asset Storeから必要なライブラリをインポートして利用することで様々な機能を実装する方法などを学びました。
 

参加者の皆さんには、今回の体験や知識を踏まえた上で何をどのようにVR機器で可視化するか、この夏休みの間に考えてもらうことになっています。色々な3Dモデルを作ることはもちろん、それをアニメーションさせたり、コントローラを用いて自由に操作したり、他にもたくさんの可能性があると思っています。どのようなアイディアが出てくるか、とても楽しみです。(文責 稲生啓行)

 

[SG2]外部講師セミナー「器官発生過程の定量と数理」(2017年7月28日)

スタディーグループ2「イメージングと数理の融合:動きや形の定量とモデリング」では、理化学研究所生命システム研究センターの森下喜弘氏を招き、セミナーを行いました。

 

本セミナーでは、生体器官の形態形成過程における細胞・組織レベルの動態解析(計測・データ解析・数理モデリング)について、ニワトリ神経管の実験データを具体的に示しながら、実験と理論の融合研究のお話しをしていただきました。主に3つのトピックから成り立っており、生体組織の1.変形、2.力学、3.情報をキーワードとし、どの話題においても多様体を基礎とする理論について触れられました。また、どのような理論構築が可能か、どのように実験データを利用し理論研究と結びつけるのかといったテーマについてもお話しいただきました。

 

1つ目のトピックは生体組織内に埋め込んだランドマークの情報から変形写像を推定するデータ解析に関するお話しで、最新の研究成果を基にお話しいただきました(2017, Morishita, et al., Nat Comm.)。2つ目のトピックでは、神経管の形態変化を超弾性体でモデル化し、成長を含む力学シミュレーションで形態形成を再現する最新の試みについてお話しいただきました。3つ目のトピックでは、細胞に位置情報を与える情報源の最適な配置に関する問題に対して、情報論的視点から研究に取り組まれている様子をお話しいただきました。

 

突然のスコールにもかかわらず30名近くの参加者が集まり、研究のモチベーションや理論構築の前提に関する活発な質疑がなされました。多様な背景を持つ参加者(生命科学系:非生命科学系=3:2)の活発な議論が続き、予定の時間を越すほどの盛況となりました。(文責 平島剛志)

 

MACS連続講演「Neurotopology - The topology of neural systems」(2017年7月18日・19日)

MACS連続講演ではアバディーン大学のRan Levi氏を招き、「Neurotopology – The topology of neural systems」と題してふたつの講義からなる講演会を行いました。

 

代数トポロジーとはホモトピーと呼ばれる変形で不変な空間の性質を代数的に抽出することで研究する数学分野であり、空間のおおまかな形を数値化するための道具を提供します。近年、代数トポロジーはネットワーク理論、データ解析、ロボット工学など様々な分野へと応用され、「応用トポロジー」という言葉が一般的になりつつある。本講演会ではLevi氏がスイスのBlue Brain Projectと共同で研究している代数トポロジーの神経科学への応用に関する解説を2回に分けて行いました。

 

第1回講義は代数トポロジーの入門コースでした。講義の目的は代数トポロジーの道具を学ぶことではなく、アイデアを理解することでした。単体複体という「レゴブロック」のように単純な基本ブロックを積み上げることで得られる基礎的な空間と関連する旗複体を導入し、それを解析するための代数的な道具であるホモロジーについて解説しました。また、有向旗複体という新しい空間も導入し、神経科学をモデル化するために必要なセッティングを整えました。

 

第2回講義は、第1回講義のアイデアを用いて行なっているLevi氏とBlue Brain Projectと行なっている共同研究について、主に代数トポロジーがどのように応用されるかについての解説をしました。Blue Brain再構成と呼ばれる神経科学におけるデータ解析の方法と代数トポロジーを用いたデータ解析を比較することで、代数トポロジーの応用が神経科学において有効であることを示し、その後、いくつか具体的なモデルに対して代数トポロジーを用いたデータ解析を行いました。最後に、Levi氏とBlue Brain Projectの共同研究の現状と将来の展望をお話いただき、講義は終了しました。

 

講義には30名近くの出席者が集まり、講義は盛況でした。参加者は多様な背景(数学だけではなく、物理、生物、神経科学など)をもっていましたが、Levi氏が丁寧に講義なさったため、多くの熱心な質疑がなされ、講義終了後の議論も非常に活発で、予定時間を超過するほどでした。(文責 岸本大祐)

 

*当日の講義スライドおよび配布資料はこちらのページからダウンロードできます。