-発生パターンの比較から二足歩行の起源に迫る-

森本直記 理学研究科助教、中務真人 同教授の研究グループは、スイス・チューリッヒ大学と共同で、ヒトの直立二足歩行の起源について、発生パターンを比較することによって、ヒトは従来の有力仮説「ナックル歩行仮説」のようにチンパンジーやゴリラのような歩き方をしていたのではなく、「普通の四足」の類人猿から進化したことを裏付けました。長年論争が続いてきたヒトの直立二足歩行の起源について、その解明に迫る画期的な成果といえます。

 

本研究成果は、2018年1月31日午後7時に英国の学術誌「Scientific Reports」に掲載されました。

研究者からのコメント

森本助教

 本研究により、形態の発生パターンの比較は有用な研究手法であることが改めて示されたと考えています。一方で、本研究では大腿骨という骨格形態の一部のみを対象としました。まだまだ取り組むべき課題は多く、今後、個体発生の比較という視点から、ヒトの起源に関する新たな知見が得られると考えます。

概要

ヒトと、チンパンジー、ゴリラなど近縁な類人猿は、共通祖先から約1,000万年前以降に順次分化しました。直立二足歩行は、ヒトが共通祖先からの分化後に独自に進化した、他の類人猿と決定的に異なる生物学的特徴です。では、直立二足歩行の前は、どのように運動していたのでしょうか。

 

ヒトの直立二足歩行の起源に関する有力な仮説の一つに、「ナックル歩行仮説」があります。ヒトに近縁な類人猿は、手のひらを地面につける「普通のサル」とは異なり、「ナックル歩行」という指の背を地面につく特徴的な四足運動をします。ナックル歩行仮説は、ヒトの祖先はナックル歩行をへて二足歩行へと移行したとする考え方です。

 

本研究グループはこの説を検証するために、運動機能の要となる骨格形態の発生パターン、つまり新生児から成体への骨格の形成過程に着目し、X線CT(コンピューター断層)データを用いた独自の形態解析手法により、これまでにない精度で詳細に分析しました。ナックル歩行仮説が正しいとすれば、現生の類人猿の発生パターンには、共通祖先から受け継いだ共通点があるはずです。しかし結果は、「ナックル歩行仮説」を否定するものでした。歩行様式の観察、そして全体的に類似したようにみえる骨格形態から、チンパンジーとゴリラの発生パターンは似ていると予想されていましたが、実は著しく異なる発生パターンをもつことが分かりました。この結果は、直立二足歩行はチンパンジーやゴリラのようなナックル歩行者ではなく、「普通の四足」の類人猿から進化したという説を支持するものです。

 

さらに、ヒトは他の霊長類にはない、特異的な発生パターンをもつことも発見しました。ヒトは、効率的な二足歩行のために後肢が長くなっていますが、どのようにして脚を伸ばしたのか、その発生基盤についてはよく分かっていませんでした。逆説的に聞こえるかもしれませんが、ヒトが長い脚を実現するために、発生を「進める」のではなく「遅らせている」ことを明らかにしました。

図:本研究成果のイメージ

 

 

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