X線自由電子レーザーの超短パルスでリボ核酸塩基分子中の電荷と原子の動きを可視化

X線自由電子レーザーの超短パルスでリボ核酸塩基分子中の電荷と原子の動きを可視化

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2017/11/29更新

-ヨウ化ウラシルによる放射線増感効果の機構解明-

八尾誠 本研究科物理学・宇宙物理学専攻教授(論文発表時)、永谷清信 同助教、上田潔 東北大教授、福澤宏宣 同助教、河野裕彦 同教授、エドウィン・クック トゥルク大学教授、カタリン・ミロン Soleil実験施設研究員、和田真一 広島大学助教、大村訓史 広島工業大学助教、矢橋牧名 理化学研究所ビームライン研究開発グループディレクター、登野健介 先端光源利用研究グループ実験技術開発チームリーダーらの研究グループは、リボ核酸を構成する塩基分子の一つであるウラシルにヨウ素を付加したヨウ化ウラシル分子にX線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLAから供給される非常に強力なX線を照射し、分子の中で起こる電荷と原子の動きを可視化することに成功しました。

 

本研究成果は、6月16日に米国の科学雑誌「Physical Review X」に掲載され、おって英国の科学雑誌「Faraday Discussions」に掲載予定です。

研究者からのコメント

本研究で確立した手法は、今後、SACLAの強力なX線パルスを用いた構造解析を行う上で重要な、放射線損傷に対する基礎的な情報を提供すると期待されます。また、ヨウ化ウラシルの放射線増感効果の機構が分子レベルで解明されたことで、新しい放射線増感剤の開発などにも繋がると期待されます。

概要

XFELは非常に強力で、わずか10フェムト秒(1フェムト秒は千兆分の1秒)の照射時間という極短パルスのX線です。XFELを用いると、1個の分子からたくさんの電子を一瞬に引き剥がすことが可能です。その結果、電荷間の反発力で分子を破壊する「クーロン爆発」という現象が誘起されます。

 

クーロン爆発で放出される電荷を帯びた原子(イオン)の速度は、それぞれのイオンが分子の中で占めていた位置を反映するため、イオンの速度を計測することでクーロン爆発した瞬間の分子の形状を知ることができます。

 

本研究では、1個のヨウ化ウラシル分子に強力なXFELパルスを照射して得られる多数のイオンの運動量を計測し、数値計算を用いて実験結果を再現することで、XFEL照射中および照射後の非常に短い時間に分子内で起こる電荷と原子の動きを明らかにしました。

 

また、ヨウ化ウラシル分子は放射線増感剤として働くことが知られていますが、このような放射線増感分子が生体あるいは癌細胞に損傷を与える分子レベルの機構は解明されていません。

 

そこで、本研究グループは、ヨウ化ウラシル分子がX線を吸収すると多数の高エネルギーイオンと低エネルギー電子からなる「放射線スープ」が生成される過程を解明することによって、局所的に生成する放射線スープによる放射線増感効果の機構を分子レベルで明らかにしました。

図:X線吸収によるヨウ化ウラシル分子のクーロン爆発の初期過程(赤の矢印は10フェムト秒の間の原子の動きを示す)(左)
  リボ核酸中でウラシルと置換されたヨウ化ウラシルが放射線スープの原料となる概念図(右)。
  図中の球はそれぞれ原子を表し、紫色はヨウ素(元素記号:I、以下同様)、灰色は炭素(C)、橙色は窒素(N)、赤色は酸素(O)、空色は水素(H)を表す。