シミュレーションで広がる生物研究の可能性

シミュレーションで広がる生物研究の可能性

スレヴィン大浜華

 

 生物科学の研究ときいて、皆さんは何を思い浮かべますか?フィールドワーク、白衣や実験器具、マウスなどの実験動物でしょうか。しかし、私の所属する生物系の研究室には顕微鏡や試験管はありません。あるのはコンピューターだけです。私たちは、DNAやタンパク質といった、生き物を構成する部品のシミュレーションをしています。

 

 シミュレーションとは、模型やコンピューターを使って現実世界の一部を再現し実験を行うことです。建物の耐震強度や、台風の進路予測など、現実世界で行うのが難しい実験や未来予測に役立ちます。

 

 人間の体内で働く分子の機能を理解するには、その構造変化を知ることが重要です。そこで活躍するのが、実験で観測した分子の静止構造をもとに、構造変化を計算する分子動力学シミュレーションです。この手法は1977年に初めて、ある小さいタンパク質に応用され、およそ10ピコ(10−11)秒間の構造変化の様子が明らかになりました。それから30数年後には、米国のスーパーコンピューター「Anton」が同じタンパク質で1ミリ(10−3)秒間の構造変化の予測を達成しました。瞬きする間もない1ミリ秒間という時間ですが、これはタンパク質の構造変化の一部始終をみることのできる時間です。

 

 現在では、タンパク質をターゲットにした抗がん剤や抗うつ剤などの薬の開発にも分子動力学シミュレーションが用いられています。タンパク質へ薬が結合するように、タンパク質は実際には多くの分子と相互作用しながら働いています。これからは、細胞内で複数の分子が協働する様子をシミュレーションすることが期待されています。