神経を操る光遺伝学

神経を操る光遺伝学

西村 理沙

 

感じること、動くこと、考えることはすべて神経によってなされています。神経を自由に操ることができたら。そんなSF のような技術が2000 年代に開発されました。光遺伝学(オプトジェネティクス)と呼ばれています。

 

たとえば熱いものに触れたとき、熱は皮膚の下にある神経細胞に届き、神経細胞は「熱い」という情報を電気信号に変換して隣の神経細胞に伝えます。神経細胞のリレーで脳まで情報が伝わると、私たちは「熱い」と感じるのです。

 

普通の神経細胞は、各自が担当する刺激しか電気信号に変換できません。光遺伝学では、遺伝子操作によってどんな神経細胞も、光を電気信号に変換できるようにしてしまうのです。すると、普段は熱にしか反応しない神経でも、光を当てるだけで電気信号を発生させることができます。つまり、好きな神経だけを選んで強制的に活動させることができるのです。

 

マウスを用いた実験が盛んに行われており、2014 年に発表された研究では、記憶を司る神経を光遺伝学で操作することで、恐怖の記憶を忘れさせたり、逆に思い出させたりすることができたそうです。2015 年9 月には、京都大学の霊長類研究所で、光遺伝学をサルに用いた実験の成功が世界で初めて報告されました。

 

光遺伝学はとても画期的な技術で、開発されて10 年ほどで実験手法として一般的に広まりました。霊長類での成功例はよりヒトに近い動物での成功を意味するものでもあります。神経が正常に活動しなくなる神経疾患に対して、強制的に神経を活動させる光遺伝学は治療法として有効かもしれないという見解もあり、臨床でも応用される期待が高まっています。