竹村 毬乃

 

ワニの性別は温度で変わる。この不思議な現象に迫った論文を、愛知県の基礎生物学研究所の大学院生・谷津遼平さんらが発表した。ワニなど一部の爬虫類では、卵がおかれている環境の温度で性別が変わることが知られている。しかしそのメカニズムは分かっておらず、長年疑問に思われていた。

 

哺乳類の場合、性別は二種類の性染色体XとYの組み合わせによって決まる。XX だとメスになり、XY だとオスになる。受精直後はどの個体も、将来卵管になる管と精管になる管の2 本を持つ。やがてオスではY染色体に含まれる性決定遺伝子が発現する。すると精管が発達し、生殖器の形成やホルモン分泌が起こってオスの特徴を持つようになる。

 

一方、爬虫類では同様の性決定遺伝子は見つかっていない。しかし、温度と強い関連があることは知られていた。

 

今回谷津さんらは、温度によって発現量が変わる遺伝子「AmTRPV4」に注目した。実験は卵の温度が33℃でオス、30℃でメスになるミシシッピワニを用いた。33℃で温めた卵でAmTRPV4 を阻害すると、卵管が発達し、精巣の形成される確率が下がった。本来オスになると発現する遺伝子が発現しなくなった。30℃で温めた卵での実験では逆のことが確かめられており、AmTRPV4 が性決定に重要な働きをしていることが分かる。

 

生物にとって性決定はとても重要なイベントである。今回その一端が明らかになったが、まだ全貌解明にはほど遠い。今後の研究にも注目したい。