マラリア治療の難しさとアルテミシニン

マラリア治療の難しさとアルテミシニン

小長谷 達郎

 

2015 年のノーベル生理医学賞に中国人研究者・屠??氏が輝いた。マラリアの治療に効果のある物質・アルテミシニンの発見が評価されたのだ。この発見が救った人命の数は実に100 万人にも及ぶといわれている。実はアルテミシニンは発見されるまで、マラリアの治療はとても困難だった。マラリアの原因となるマラリア原虫が我々と「似ている」ため、治療法が限られていたのだ。

 

結核やコレラといったかつての主要な病気の多くは、細菌が原因であり、抗生物質(抗菌物質)によって治療できる。細菌の細胞は、核を欠き細胞壁をもつなど、我々の細胞とは根本的に異なるつくりをしている。そのため、例えば、細胞壁のような細菌特有のものを抗生物質で壊してしまえば、人体にダメージを与えることなく細菌を殺すことも可能だ。

 

しかし、マラリア原虫は細菌ではなく、我々と同じ真核生物のひとつだ。単細胞であるものの、細胞のつくりはヒトとよく似ているので、人体に影響しない抗マラリア薬の開発は格段に難しかった。

 

実際、キニーネなどの従来の抗マラリア薬には強い副作用があって、人体にも影響してしまう。それに対し、屠氏が漢方薬として知られていたクソニンジンという薬草から発見したアルテミシニンは、副作用が少ないという点で画期的な物質だった。マラリアは早期に治療すれば治る病気になったのだ。

 

しかし、未来は明るいとは限らない。すでにアルテミシニンに耐性をもつマラリア原虫が出現しているためだ。マラリアの撲滅に向けさらなる研究が続けられている。