香料の人工合成

香料の人工合成

齊藤 颯

 

大学や研究所での化学の発展は、私たちの身の回りとは縁遠いものに見えます。しかし実際には、天然からは少ししか得られないものを大量に供給したり、新しい素材を生み出したりすることで、日常生活に深く関わっています。例えば、ハッカの匂いの成分であるメントールという物質は、人に無害な香料や医薬品として大切な存在です。今の日本では、主に人工的に合成されたメントールが、キャンディや虫刺されの薬など身の回りで使われています。

 

メントールを合成する時、一緒に生じてしまう不純物の中にはカビ臭いものもあるため、メントールの良い香りを保つためには純度はとても大切です。50年前は、いくつもの工程を経ながら純粋なメントールを大規模に作ることは不可能でした。しかし今では、97%もの純度で年に数千トンも作ることができます。これを可能にしたのは、化学者が発見した様々な反応や理論です。どれも高度で難解なものですが、1 つ具体例を挙げると、炭素・酸素・水素のみからなるメントールを作る工程の途中で、あえて窒素原子を一時的に取り込ませるというものがあります。これにより、炭素や酸素だけでは難しくても、窒素があることで簡単に起きる反応が利用できます。窒素という余計なものが入って遠回りに見えても、結果的に効率良く、狙い通りの合成ができるのです。

 

ありふれた存在に思えるメントールですが、天然の原料であるハッカ油はかつて貴重なものでした。ハッカは漢字では「薄荷」と書き、たくさんのハッカの葉を原料にしても、出荷されるハッカ油はほんのわずかであることを意味しています。化学が困難を1 つ乗り越えた時、私たちの生活もまた少しずつ便利になってゆくのです。