目次


開催案内

日時

2021年2月17日(水曜日)午後3時から

 

講義形式

オンライン配信(Zoom)

参加登録:http://forms.gle/v5Tj6JwwDbBNywAE8
登録されたアドレスにIDを送付いたします。
 

プログラム

15:00~
16:00
第14回 MACSコロキウム
『数値シミュレーションで地震現象の謎に迫る
講演者:金子 善宏氏  理学研究科 地球惑星科学専攻 地球物理学教室 准教授​

 

地震や地震に伴う津波が社会に与える影響は莫大であり, 地震多発国の日本のみならず, 地球上のプレート境界で活動する人類にとって, 地震を理解することは重要な共通課題である. 地震は地下深くにある岩石がプレート運動の力をうけて破壊する現象であるが, その発生過程は非常に複雑である. 私たちは力学と数値シミュレーションを用いて, 地震の発生過程やそれに伴う現象の解明を目指している. この講演では, 地震発生の仕組みや謎, また私たちが開発しているプログラムや震源断層破壊モデルについて紹介する.(講演終了後、質疑応答)

 

16:05~
16:30

2020年度MACS成果報告会
SG2020-1からSG2020-11 2分間のフラッシュトーク

SG2020-1:データ同化の数理と応用:理論モデルとデータをつなぐデータサイエンス
SG2020-2:カイメン骨片骨格形成の数理モデル構築
SG2020-3:本物を見て考えよう!:脊椎動物の胚観察から数理の可能性を探る
SG2020-4:自然科学とランダム行列
SG2020-5:自然科学における計サンプリングとモデリング:数理から実践まで
SG2020-6:Interdisciplinary Science Academy
SG2020-7:脳・生命の意思決定の数理
SG2020-8:理化学研究所とMACSを繋ぐパイプライン
SG2020-9:疾患における集団的細胞挙動の数理モデルの開拓
SG2020-10:コンピュータでとことん遊ぶ
SG2020-11:理学におけるデータ科学実践:機械学習で自然科学を読み解けるか

16:30~
17:30

各スタディグループの意見交換

16:30 SG2020-1ーSG2020-6までの意見交換(Zoomブレイクアウトルーム)
17:00 SG2020-7-SG2020-11までの意見交換(Zoomブレイクアウトルーム)

 

備考

  • ◎理学部・理学研究科の学生・教職員が対象ですが、京都大学の方ならどなたでもご参加いただけます。
  • ◎問い合わせ先:macs * sci.kyoto-u.ac.jp(*を@に変えてください)

講演動画

『数値シミュレーションで地震現象の謎に迫る』金子 善宏氏

 


開催報告

2020年度最後のMACSコロキウムでは,地震発生物理学をご専門とする金子善宏博士(京都大学理学研究科 地球惑星科学専攻 地球物理学教室 准教授)に「数値シミュレーションで地震現象の謎に迫る」というタイトルでご講演していただきました.

導入部分では,地震学における地震の仕組みと複雑性についての一般的な内容,ならびに現在でも未解明である問題について焦点が当てられました.地震波は一般的に弾性波として考えられており,実際にマクロな力学モデルにより比較的容易に理解できることを紹介していただきました.具体的には,地震波と流体運動の相互作用を,それぞれフックの法則を組み込んだ波動方程式と音波方程式の連立によってモデリングし,数値シミュレーションを通してその妥当性を定量的に示されました.一方で,断層に働く摩擦構成則の与え方,地震前の応力場については未だ決定的な解決が与えられていないこと,そして巨大地震の発生機構の解明へ向け大きな鍵を握っているであろうと近年注目を浴びているスロー地震についても,その発生原因については未解明であり,喫緊の課題として多くの地震学者により研究されているとのことです.

続いて,金子先生の最近の研究成果である「断層条線の特性から探る大地震の破壊伝播方向」についてご紹介いただきました.断層条線とは,断層がずれるときにできる擦り傷のことで,ある場所での地震による変位の軌跡を表します.断層条線そのものは古くから観測対象とされており,教科書にも掲載されていますが,そのほとんどが直線的なものに限られます.しかし,金子先生らの研究グループが観測を行った地震の中の約7割において,条線が湾曲しているという事実が発見されました.金子先生は,湾曲の原因は地震の破壊に伴う動的な応力にあると仮説をたて,2016年ニュージーランドで発生したM7.8のKaikoura地震におけるKekerengu断層をサンプルとし検証を行いました.具体的には,地震波を前半で紹介された波動方程式とフックの法則で記述し,断層に働く摩擦構成則をすべり弱化則と仮定して,動的破壊シミュレーションをスペクトラル要素法で実行しました.結果,断層のすべり角度と震源地との関連性が見出され,断層条線の湾曲を調べれば地震波による破壊の伝播方向が分かる,という結論を得ました.Kekerengu断層は横ずれ断層に類別されますが,その他の逆断層や生断層などに対しても同様の結果が得られることも併せて報告されました.したがって,波形データが存在しない古地震に対しても,破壊の伝播方向を調べる手段が提案されたことになります.本研究成果を発展させ,地震伝播の指向性に関する知見を得ることができれば,災害による被害を軽減できるかもしれません.「地震研究の社会的意義は地震予測のみにあるのではなく,わからない現象への不安を取り除くこと.地震予測の可能性はその延長線上にある.」とは金子先生の信条とのことですが,まさにそれを体現する研究成果であると感じられました.

さて,今回は90名を超える方々にお集まりいただきました.質疑応答では,「実際にシミュレーションを行う上で本質となるパラメータをどのように同定するのか?」,「地震を予測できる未来はやってくるのか?」など,極めて本質的かつ興味深い質問が出され,終始活気を帯びたコロキウムとなりました.ところで,日本は世界有数の地震大国として知られており,常に震災の恐怖と隣り合わせで生活しているといっても過言ではないでしょう.本コロキウムの数日前(2月13日)には,M7.3の地震が福島県沖で発生し,2011年3月11日に発生した東日本大震災を思い出させました.あの「3.11」からちょうど10年経った今,きたる南海トラフ地震に向けて日に日に危機感を増している我々にとって,地震学における最前線の一端を垣間見えることができたのは大変幸運であったと思います.
(文責:小林 俊介)