目次


開催案内

日時

2019年11月15日(金)14時45分~

 

場所

理学部6号館401講義室
アクセス 建物配置図(北部構内)【4】の建物

 

プログラム

14:45〜 ティータイム

15:00~

 

「21世紀の天文学 構造形成学から物質科学へ」
坂井 南美 氏
理化学研究所 開拓研究本部 坂井星・惑星形成研究室 主任研究員

 

21世紀になり、国際協力のもとで巨大観測装置が実現したことで、天文学の研究対象と役割は大きな変革の時を向かえています。遥か遠くの宇宙に存在する原子や分子などの”物質”が詳細に観測できるようになったためです。

どのようにして私たちを取り巻くこの豊かな世界が実現するに至ったのか。アルマ望遠鏡などを用いて星や惑星の誕生過程の研究をすると共に、最先端の分子科学分野との共同研究によりこれを明らかにしようと試みています。

(講演終了後、質疑応答)

16:15~

「有機固体中の電子励起状態ダイナミクス」
渡邊 一也 氏
京都大学大学院理学研究科 分子分光学研究室 教授

 

π電子系を持つ有機分子は,光と相互作用することでさまざまな機能を発現するため、その電子励起状態における超高速ダイナミクスは古くからの研究対象とされてきました。多彩な超高速過程を理解する上で,分子の原子核の振動運動と電子励起状態の結合を解明することは重要です。講演では,有機固体で発現する一重項励起子分裂などの超高速現象をとりあげ,極短パルスレーザー光を用いた時間分解分光による研究について紹介します。

(講演終了後、質疑応答)

17:45~

継続討論会(軽食をつまみながら気楽な雰囲気で講演者や参加者と学問の話をする場です)  

場所:理学部6号館202号室

 

備考

京都大学の学生・教職員はどなたでもご参加いただけます。申し込み不要。

 

問い合わせ先

macs*sci.kyoto-u.ac.jp 〔*を@に変えて送信してください〕


講演動画

『有機固体中の電子励起状態ダイナミクス』渡邊 一也 氏

 


開催報告

坂井 南美氏
 
渡邊 一也氏

前半は、坂井南美さん(理化学研究所主任研究員)に「21世紀の天文学 構造形成学から物質科学へ」のタイトルでお話ししていただきました。
 
最初に「私達はなぜここにいるのか?」という問いかけから、天文学が占星術から、天体力学、分光学、宇宙工学とどのように変遷してきて、宇宙の構造形成史の理解に寄与してきた様子を概観されました。
具体的には、構造形成、例えば星形成のきっかけとしての星間分子が、数日に一回くらいの頻度でしか形成されないと見積もられます。これと、生成された分子の崩壊過程も同じ程度の頻度で起こる、ということからも構造形成を理解することは一筋縄でいかない( CO形成に106年)ことも説明されました。
現代では、約200種ほどの星間分子が分光学の知識を使って同定されております。最新の施設であるALMA望遠鏡を使って、実際観測される分子種が宇宙空間の場所によって異なることや同位体比の違いから、それぞれの場所の環境や構造がどのように進化してきたかを推測するという幅広いスケールにわたる研究が展開されていました。また宇宙観測のデータをより精度よく読み取るには、より詳細な分光学の進展が望まれているようです。
質疑応答や講演後の講談会中も休みなく、活発に参加者の質問へ答えたり、意見交換をしていただく貴重な時間を提供していただきました。
(文責:太田洋輝)

 

第十回 MACS コロキウム後半の講演では、京都大学大学院理学研究科の分子分光学研究室教授である渡邊一也さんに「有機固体中の電子励起状態ダイナミクス」というタイトルで講演をしていただきました。ピコ秒・フェムト秒という極めて短い時間領域で分子の励起状態の様子を捉える研究について、最新の話題を交えて紹介いただきました。

まず使用する技術として、ポンプ・プローブ分光法 pump-probe method とその適用対象が紹介されました。ポンプ・プローブ法はごく短時間だけ光るレーザーパルスを2つに分割し、異なる経路を通じて対象に当てることで、励起および観測を行う手法です。第一の光(ポンプ)で反応が開始され、第二の光(プローブ)で観測が行われますが、この経路の距離を調節することで、高い時間分解能の計測ができることが特徴です。研究の基礎となる技術として、フェムト秒(十のマイナス十五乗秒)スケールの時間幅を有する極短パルスレーザー光の技術の紹介もしていただきました。また計測対象の例として、光合成や、光応答性蛋白、ならびに有機分子を用いた太陽電池の研究が紹介されました。

中盤以降は、今回の主な対象である一重項励起子分裂 singlet fission という現象と、それにまつわる渡邊氏らの最新の研究成果について解説していただきました。一重項励起子分裂は有機固体中で一つの励起子から二つの三重項励起子が生成する現象で、太陽電池の効率を向上させる可能性が指摘されて以後注目を集めている現象です。講演では,ルブレン単結晶において,分子振動により駆動される超高速fission過程についての研究成果や,微小共振器中でのポラリトン形成によるfission速度の変調などの最新の成果についてお話しいただきました。

その後の質疑応答では、光パルスのタイミングを合わせる方法や、光で励起する反応以外での超高速観測について、DNA の紫外線による分解への利用など、多くの質問が寄せられ、有意義な時間となりました。
(文責:石塚裕大)