名誉教授随想『リーダーシップと合意形成』

名誉教授随想『リーダーシップと合意形成』

元生物科学専攻(生物物理学系)所属・名誉教授 平野 丈夫

 
 

以前から国・地方自治体・組織の長の役割について考えてきた。私が理学研究科長を務めた時には、優れた能力を有する多様な構成員がその力を十分発揮できるような組織運営を心掛けたつもりである。また、異なる背景と経験・価値観・利害を有する構成員間で事実に基づく情報共有を行い、各々が納得あるいは妥協できる施策の計画と実施を目指した。

ところで近年、各国の首長や政治家の一部は、外あるいは内部に敵を作り、一方的かつ必ずしも事実に即しない発言を行い、支持者を固めることを狙っているように見える。また、公務員等の国・社会全体への奉仕者を人事で縛ったり、報道機関に圧力をかけることにより、異論を排除して、リーダーを含む特定グループの価値観に沿った、あるいは一部の人を利する施策がなされていると思われることもある。そして、社会における短文のSNS活用の増加と、新聞・TV等マスコミの質または相対的影響力の低下が、各人が受け取る情報を偏らせて、社会に広がる情報の精度とバランスを劣化させてしまっているようにも感じる。

実際のところ、国や組織において、内部グループや構成員の利害は異なり、さらに短期的なメリットが長期的なデメリットを引き起こすリスクがあることも多い。全員が完全に納得できる施策の決定・実施はほぼ不可能であろう。しかしながら現在、我々はコロナウイルス感染対策、経済と財政の立て直し、貧富の格差是正、安全保障対策、地球温暖化対策等、国や世界中で協調が必要な様々な課題を抱えており、成り行き任せにはできない。リーダーには各施策について、多様な見解に耳を傾けつつ、事実に基づきメリットとデメリット、およびそれらを考慮した上での判断理由を明確に説明してもらいたい。我々も自らの見識を高めて、良きリーダーを育てたいものである。そして、首長・政治家・行政組織・市民の間で、また組織の長と構成員の間で信頼関係を向上させて、施策をより適切にしていくことが必要と思う。