Role of blood flow on endothelial polarity in health and disease

日時

2018年12月5日(水)16:00〜

 

場所

京都大学理学部1号館101号室(BP2)
アクセス 建物配置図(北部構内)【2】の建物

 

講師

中山雅敬 博士
(Max-Planck-Institute for Heart and Lung Research, Laboratory for Cell Polarity and Organogenesis, Group Leader)

 

要旨

私たちの体の中では、ポンプである心臓から絶え間なく血流が送り出され、動脈、毛細血管、静脈を通り心臓に戻るという循環を繰り返している。血流は酸素や養分を生体内の様々な組織に送り届ける一方で老廃物を除去する。さらに、血管は各組織で、組織特異的な細胞と特殊な構造を作り、単に物質輸送のパイプラインとしてではなく、組織の機能に積極的に関わっている。これらの機能を通して、血管構造は生命機能の維持に必須であることが知られる。

 

血管を構成する血管内皮細胞は、apical basal方向に極性を有し、tight junctionを持つ。これらの構造により、血液の組織への漏出を防いでいる。同時に近年の研究から、血流の方向に対しても極性化していることが明らかになって来た。本プレゼンテーションでは、線虫から哺乳類に至るまで進化の過程で保存されて来た細胞極性因子であるPAR複合体に注目し、血流が血管内皮細胞に与える影響を検討した。血管構造から血流をシミレーションしその結果を、ノックアウトマウス、培養細胞、での実験系と組み合わせることにより、生理的、病的条件下での同因子の血管に対する影響を考察する。


開催報告

MACS-SG3では、Max-Planck-Institute for Heart and Lung Researchの中山雅敬博士に「Role of blood flow on endothelial polarity in health and disease」という演題でセミナーをして頂きました。講演は血管の枝分かれ構造の背景原理や血管研究そのものの歴史についての解説から始まり、血管を構成する内皮細胞が持つ2種類の極性(①頂端-基底極性、②血流に対する極性)における細胞極性制御因子群aPKC/PAR-6/PAR-3の役割の解析について話されました。講演の前半では、血管特異的なPAR-3のノックアウトマウスを細胞生物学的手技や血流シミュレーションなどを駆使して解析した所、頂端-基底極性には影響がないが血流に対する極性が乱れていることや、血流に対する極性の乱れとアテローム性動脈硬化症の起こりやすさとの関連性などについて説明して頂きました。講演の後半では、血管特異的なaPKCのノックアウトマウスで観察された「細胞増殖に正に働くVEGFシグナルが多く入っているのに内皮細胞の増殖が減少している点」に注目した解析がAngiosarcomaとの関連性にまで発展した話について、分子メカニズムを中心に説明して頂きました。論文では語られない研究に関連する様々な実体験や実情も話して頂き、聴衆も講演に聞き入り活発な議論へと発展していました。(文責:高瀬悠太)