コラム『セミの鳴き声』

コラム『セミの鳴き声』

動物学教室・教授 沼田 英治

 
 
沼田教授

2009年10月に大阪市立大学から京都大学に異動した。以来毎年夏になると前任地との大きな違いを感じている。それはセミの鳴き声である。大阪市立大学では、まれにアブラゼミの鳴き声が聞こえたが、ほとんどクマゼミの鳴き声ばかりだった。ところが、ここでは毎年、クマゼミ、アブラゼミ、ニイニイゼミ、ツクツクボウシ、ヒグラシ、ミンミンゼミと6種の鳴き声が聞こえる。大阪市でもかつてはクマゼミ以外に、アブラゼミ、ニイニイゼミ、ツクツクボウシの声が聞こえ、そこで育った吉澤透名誉教授によると、戦前はミンミンゼミもふつうにいたそうである。人工環境で生物の多様性が失われるのは一般的な現象だが、それにしても大阪でクマゼミばかりになったのは際立った変化である。

 

虫の声としてすぐに思い出されるのはスズムシのオスがメスを呼ぶ美しい鳴き声である。スズムシは、翅にあるヤスリ器とコスリ器をこすりあわせ、翅に共鳴させて音を出す。これはバイオリンに例えられる。セミの声もオスがメスを呼ぶ愛の歌であるが、音を出すしくみは異なる。セミは腹部のクチクラの膜で音を出す。缶のふたを指で押して離すとペコンという音がするのと同じで、太鼓と似たしくみである。ただし、太鼓は手やバチで外からたたくのに対して、セミは筋肉で内側から膜を引っ張って音を出し、その音を腹部に共鳴させて大きくする。

 

虫の声もクマゼミのように騒音のレベルに達することがあるが、一方で季節の風物として欠くことのできないものともいえる。ニイニイゼミの鳴き声に夏の到来を知り、盛夏には、朝にクマゼミ、昼にアブラゼミ、夕方にヒグラシの鳴き声を聞く。そして、ツクツクボウシの鳴き声は夏の終わりを告げる。いつまでも、さまざまなセミの声が聞かれるキャンパスであってほしい。