研究紹介『見えてきたカルデラの深部構造』

研究紹介『見えてきたカルデラの深部構造』

地球熱学研究施設・教授 大倉 敬宏

 
 
著者(インドネシア・スマトラ島のシナブン火山を背景に)

阿蘇火山(写真1)では約9万年前におよそ200km3のマグマが噴出する噴火が発生し、日本最大級のカルデラ(東西18×南北25km)が形成されました。このような規模の噴火の際に放出される珪長質マグマは、地殻深部(深さ10~30km)の物質の部分溶融により生成されたものであると考えられており、地殻深部の構造を調べることが大規模噴火のメカニズムを明らかにする上では重要です。

 

そこで我々は阿蘇カルデラにおいて稠密な地震観測を行ない、得られた遠地地震の波形記録から多数のレシーバ関数(RF)を作成しました。RFとはP波の水平成分を鉛直成分でデコンボルブして得られる時間関数で、地下の地震波速度不連続面でPS変換した後続波を強調したものです。マグマなどの流体を含む層は周囲より地震波の伝播速度が遅くなり、この層の上面でのPS変換波などがRFに含まれています。そして、これらのRFに遺伝的アルゴリズムインバージョンを適用することにより地殻~マントルのS波速度構造を決定しました。

 

その結果、カルデラ中央部の深さ8-15kmに水平サイズ5 x 5kmの低速度領域(S波速度~2.4km/s)が存在することが明らかになりました(図1)。この領域の直下では深部低周波地震が発生しており、マントルからの流体移動が示唆されます。また、地殻変動源もこの領域に位置しています。これらのことから、この低速度領域で珪長質マグマが生成されている可能性があると考えられます。また、この領域と周りの領域のS波速度の差から、最大で25km3のマグマがこの領域に含まれていると推定することができます。

 

阿蘇火山では、過去30万年間に4回の大規模噴火が発生しました。果たして5回目はあるのか? それはいつか? 徐々に見え始めたカルデラ深部にその謎を解く鍵があります。

写真1:阿蘇火山では2014年11月25日に約20年ぶりのマグマ噴火が発生しました。2015年5月までのマグマの総放出量はおおよそ0.001 km3です。写真は2015年4月21日のストロンボリ式噴火。
図1:レシーバ関数の遺伝的アルゴリズムインバージョンで求められ阿蘇カルデラ近傍のS波速度構造のうち、深度10kmのS波速度分布とそのB-B' 断面図を示しています。赤四角は解析に用いられた地震観測点(AVLは火山研究センター)、赤丸は深部低周波地震(DLFE)。白点線で囲まれた領域に低速度領域が存在しています。