黒点の「たまご」と宇宙天気予報

黒点の「たまご」と宇宙天気予報

研究する理学学生の第1弾として、宇宙物理学専攻 修士課程2回生の町田亜希さんの研究をご紹介します。

「好奇心や初心を忘れないでいることは、何かを長く続けるための大事なモチベーションになります」という町田さんに太陽の黒点の「たまご」の研究と研究生活について語っていただきました。

 

京大理学部へ

高校2年生の3月に東日本大震災がありました。日本は、災害が多い国で自然の力に勝てないのは仕方のないことかもしれませんが、地震の予知を精度良くするなど何か貢献できることがあるのではと、地球物理系の研究者になるため京大理学部に入学しました。

 

研究室を決める直前の2回生後期に、京大附属天文台長の柴田一成先生の講義で見せていただいた美しい太陽の写真に感動しました。また、太陽は地球からとても遠いところにあるけれども、爆発が起こると地球に様々な影響を及ぼすということをその時はじめて知ったんです。

 

その講義がきっかけで、太陽で起こった爆発が地球に影響を与える「宇宙天気」の予報を実現したいと思うようになり、太陽物理学の研究室を志望しました。

宇宙天気

太陽では、ダイナミックな現象がたくさん起こっています。中でもとりわけ大きいのは、太陽面での爆発現象、「フレア」です。

フレアが発生すると、太陽から地球へ高エネルギー粒子やX線などの放射線、太陽風(太陽から惑星間空間へと向かうプラズマ1の流れ)がやってきます。

 

高エネルギー粒子は、人工衛星の誤作動や故障を招きます。

たとえば、カーナビ等に用いられているGPSは人工衛星を利用したシステムですが、フレアが起こると位置情報に誤差が生じてしまうことがあります。

近年では自動運転の技術開発が進み、この自動運転でもGPSを利用するので、いつ位置情報がずれるのかを把握することは緊急の課題です。

 

また、放射線が宇宙飛行士の被曝の原因になるということだけでなく、民間の航空機が大気圏すれすれの放射線から守られる限界域を飛行しているため、飛ぶルートによっては乗員・乗客の被曝への配慮が必要です。

 
*1

物質は温度が上昇するにつれて、固体、液体、気体と状態が変化しますが、気体の温度がさらに上昇すると、原子核のまわりを回っていた電子が原子から離れます。これがプラズマです。

さらに、太陽風の影響で地球周辺の磁場が変化して磁気嵐2が発生すると、大停電が起こることもあります。

このように、フレアが社会生活に影響を及ぼすことは言うまでもありません。

 

太陽が爆発するのを私たちには止めらませんが、爆発がいつ、どれくらいの大きさで、どの方向で起こるのかというフレアの予報をすることはできると思います。

それで着眼したのが「生まれたての黒点」です。

 
*2

地球全体は磁石になっており、南極(N極)と北極(S極)があり、その両極は目に見えない磁力線で結ばれています。太陽風はプラズマの流れですが、このプラズマは磁力線にまとわり付いているので、地球の磁場は磁気を帯びた太陽風によって乱されます。これが磁気嵐です。

生まれたての黒点

そもそも太陽物理学の研究室を選んだのは、宇宙天気予報の実現に貢献したいからです。宇宙天気は太陽で「フレア」と呼ばれる爆発現象が原因で起こります。そのフレアは黒点の近くで発生することが多いのですが、私の研究は特に生まれたての黒点をターゲットにしています。

 

太陽も巨大な磁石になっていて、磁石に砂鉄を撒くと砂鉄がループの模様(磁力線の形)を描くように、黒点は、磁力線の束がループを描きながら太陽の中から表面に向かって出入りするところです。磁力線の「出口」のS極と「入口」のN極があり、黒点は基本的に2つペアで現れます。太陽の光球面(目で見られる太陽の表面)に現れた初期段階のものを「浮上磁場領域」といいます。2~3日で消えてしまうものもあれば、数週間かけて成長し大きな黒点になるものもあります。

 

作成:町田亜希

 

フレアは黒点の近くで頻繁に発生します。もし仮に浮上磁場領域がその後成長してフレアを起こすような黒点になるかどうかが事前にわかれば、フレアの予報に時間的な余裕が生まれます。

それで、まず浮上磁場領域を地道に調べることにしました。特に、京都大学には太陽面でものが飛び出す速度を調べるのに最適な望遠鏡があるので、速度の観点から詳しくアプローチすることにしました。

*3

Hα線とは、電離した水素原子が発する電磁波(光)のことです。肉眼で赤く見えます。




 

観測データをチェック

SMARTの操作を行うための部屋では、望遠鏡を実際に動かしながら、太陽でフレア(爆発現象)などが起こっていないか日々モニタリングしています。

研究では、京大附属の飛騨天文台(岐阜県)にある太陽磁場活動望遠鏡(Solar Magnetic Activity Research Telescope; SMART)を主に使いました。これはHα線3で太陽の全面を毎日観測し、光のドップラー効果を利用して太陽面でものが飛び出す速度を測ることができる望遠鏡です。

 

救急車が近づくと音が高く聞こえ、遠ざかると低く聞こえるというドップラー効果と同様に、太陽からやってくる光も、近づいてくるときと遠ざかっていくときに波長が短くなったり伸びたりする波の性質をもっています。

ですので、もともとものがよく見えていた波長からどれだけずれた波長のところでものがよく見えるかを調べると、速度を求めることができます。

そのため、SMARTには観測できる光の波長を変えられる特殊なフィルターがついています。

 

この望遠鏡を使って、天文台のスタッフや学生などの数名が交代で観測を行っています。私も観測当番になれば、2週間弱は天文台に寝泊まりし、日の出前から望遠鏡を動かして日没までずっと観測していました。その合間に自分の研究もしますので、体力勝負です。

特に大学院に入ってからは、多い時には月の半分くらいを飛騨天文台で過ごしました。

 

こうして得られた研究成果は2つあります。

ひとつは、生まれたての黒点で湧き出てくる磁力線は、常に同じスピードで浮上するのではなく、間欠泉のように「ポコっポコっ」っと浮上してくるということです。

 

もうひとつは、太陽のどこに黒点が生まれ現れるかによって磁力線が湧き上がろうとする上昇速度に若干の差があるということがわかりました。

 

太陽には主に電離した水素ガスがあります。ガスの密度は一定ではなく、コロナホールという、ガスが惑星間空間に流れ出たガス密度の小さい場所もあります。それで、ガスの密度が標準的なところと小さいところで磁力線が湧き上がってくる速度を調べ、比較してみました。

 

その結果、ガスが薄いところ、コロナホールの近くの方が磁力線の上がってくる速度が少し速いというのを捉えることができました。ガスの密度が標準的なところでは数 km/s~30 km/s程度の上昇速度が検出されましたが、コロナホールの近くではこれよりもさらに10 km/s程度大きい上昇速度もみられました。

データの数を増やし統計的に解析したときにもこの結果と同じことがいえるのかどうか、今後のさらなる観測に期待します。

 

これらを初めて見つけたことが修士課程での研究成果です。

三味線三昧

学生生活では、勉強や研究の他にもいろいろなことに熱中しました。

学部生の頃は、三味線のサークル一色という感じの生活を送り、暇さえあればよく稽古をしていました。大学院に入って忙しくなったので三味線から遠ざかっていましたが、最近、修士論文が落ち着いたので再び稽古を再開しました。

 

三味線は、弾く人の人生がその音や歌声ににじみ出るような気がして、とても奥深い楽器だと思っています。それが私にとっての三味線の魅力です。楽譜に書いてある通り弾くのも一苦労ですが、そういう奥深さのようなものが自分の演奏でも表現できるようになれたらいいですね。

 

出前授業

4回生から現在までの3年間は、出前授業も行いました。京都大学では、京都府の小学校と連携し、小学生に少しでも科学的におもしろいと思ってもらえる授業を提供する試みがあります。

 

その取り組みのひとつとして、実際の観測データとシミュレーションを使って宇宙について楽しく学んでもらう、4次元デジタル宇宙シアター4があります。

 

大きな教室の壁に宇宙の映像を映し出し、小学生は3Dメガネをかけて見ます。その映像空間では、地球を飛び出して太陽系も飛び出し、さらにもっと先の銀河系も飛び出し宇宙の果てぎりぎりまで飛び出すような体感ができます。

大学生が見てもワクワクするような映像を見ながら、わかりやすく小学生に授業します。

 

大学で当たり前だと思っていたことを小学生に伝えるのは、とても難しいです。最近やっとコミュニケーションをとりながら授業ができるようになりました。

小学生は素朴な疑問をどんどん質問してくるので、それに答えられるように勉強したり、刺激を受けながら取り組むことができました。

 

初めて聴く内容に、小学生は「わあ」ってすごく驚いて喜んでくれるんです。私も太陽を研究しようと思ったきっかけは、「わあ」っという好奇心でした。だから、そういう好奇心や初心を忘れないでいることは、何かを長く続けるための大事なモチベーションになります。

*4

次元に時間の分を足すので、4次元です。時間を自由に進めながら、月が地球のまわりを、地球が太陽のまわりをまわっていることを実感してもらえます。

理学女子会

1回生の頃はクラス単位で授業を受けていました。理学部には女子学生が少ないということもあり、特に同じクラスの女子学生同士はいまも交流が続いています。

月に1回くらいのペースで、だれかの下宿に手料理とお酒を持ち寄って女子会をするのが、研究生活の中では息抜きになっていました。

楽しい話題はもちろんのこと、研究室のことや将来のことなど本音で相談しあえる大切な場でもあります。

今年の4月から就職や進学でそれぞれ離れることになりますが、今後も集まるのを楽しみにしています。

宇宙天気「予報」

飛騨天文台にて

4月から就職する気象庁では、宇宙天気予報の情報を使ってもらうための仕組みやルール作りをするような、制度や運用面に力を注いでいけたらいいなと思っています。

 

アメリカでは、日本の気象庁にあたるような機関が宇宙天気予報の情報発信を行っています。過去にフレアの影響で停電が起こったこともあり、宇宙天気予報はある程度知られています。

 

しかし、日本では、宇宙天気予報の研究を行っている機関はありますが、そもそも宇宙天気予報があまり知られていません。北極南極に近いところほど宇宙天気の影響を受けやすいんですが、日本からは距離が離れているので、まだ問題に直面していないのが一因だと考えています。

 

太陽でフレアが起こるとGPSによる位置情報に誤差が生じる可能性がありますので、今後自動運転が盛んになれば、なおさら注意が必要です。

 

ですから、将来、今以上に技術の発達した世の中になっても安心して生活できるよう、日本で宇宙天気予報という情報をいろんな人に使ってもらいたいですね。出かける前に天気予報をチェックするように、宇宙天気予報もチェックできるようにしたいです。

 

太陽と出会えて

SMART当番で見た日の出(撮影:町田亜希)

京大理学部では、入学するときに学科分けをせず、3回生に学科を決めるしくみになっています。1回生から2回生の間にいろいろなアンテナをはってみたら自分の知らない世界に「太陽」というおもしろいものがあって出会えました。

楽しいことや好きで取り組めることに出会えるような自由さのある京大のような大学は、他にはないと思っています。



(文責 藤井陽奈子)