こんな面白い研究やめられない
― 様々なアプローチで太陽系の起源にせまる

こんな面白い研究やめられない 
― 様々なアプローチで太陽系の起源にせまる

土山 明 教授 地球惑星科学専攻 地質学鉱物学教室
※土山の土の正式表記は右上に`

 ちょうど3年前の12月3日、澄み渡る青空の中、小惑星探査機「はやぶさ2」を載せたロケットが、鹿児島の種子島宇宙センターから打ち上げられました。「はやぶさ2」が6年、50億キロの挑戦に旅立った瞬間でした。今も宇宙の一人旅は続いており、めざす小惑星「リュウグウ」には来年2018年6〜7月に到着します。着陸して石を採取し、東京五輪が開かれる2020年の12月に、地球へ帰ってくる計画です。

 

 どうして小惑星なのでしょうか。それは、小惑星の物質には、太陽系が誕生したときやその後の進化の情報を持っている「太陽系の原材料」があると考えられているからです。地球などの大きな天体では、そのような原材料は過去に一度融けてしまった経緯があるため、それ以前の情報を得ることができません。

 

JAXAからサンプルを受け取ってからは、毎日が必死だった
― 初代はやぶさサンプル初期分析チームリーダーとしての日々 ―

 

 この「はやぶさ2」打ち上げの4年半前、小惑星「イトカワ」の微粒子サンプルを持ち帰るという、世界初の偉業を成し遂げて地球に帰還を果たしたのが、初代「はやぶさ」でした。そして、「はやぶさ」が持ち帰った微粒子の初期分析にチームリーダーとして携わったのが、土山 明教授です。初期分析の目的は、どのような物質がどれだけ含まれているのか代表的なサンプル(微粒子)についてカタログ化すること。つまり、その後JAXA(宇宙航空研究開発機構)が世界の研究者に公募して進められる詳細研究に対して、「このサンプルを使ったら、こういうことが分かるかもしれない」という情報を提供することです。

 

 「はやぶさ」は1500個以上の粒子を持ち帰りましたが、そのほとんどは大きさが10μm以下の非常に小さなものでした。これは1ミリの1/100以下で、なんと髪の毛の太さの1/10くらいしかありません。比較的サイズの大きな粒子の中から、JAXAが初期分析に配分したのは約60個(サイズは30-180µm)でした。国内で選抜された8つの分析チームがそれぞれの得意分野で微粒子の微細構造や元素組成、有機化合物の有無など分析を行うことになっていました。その中でも40個を使って最初に分析を始めることになったのが土山教授のグループです。

 

 土山教授はX線マイクロCT(コンピュータ断層撮影装置)を用いて、一つ一つの3次元形状と内部構造をコンピュータ上に再現させていきました。また、どんな鉱物でできているかを特定し、それら鉱物の3次元的空間分布を明らかにしました。サンプル微粒子をより細かく切断・破砕しなくてもすむ非破壊分析は、初期分析の最重要作業でした。

 

3D プリンターでつくったイトカワ微粒子サンプル模型。

 

異なる2 つのX 線エネルギーで撮影することにより、構成鉱物の定量的な3 次元分布(3 次元マップ)が可能に。

 

 得られた分析結果は他の6チームと共有され、限られたサンプルを最大限有効に使ってその後の初期分析が進められました。例えば、他の分析チームは土山教授の分析データをもとに、サンプルのどの面を切断すれば調べたいものが見つかるか狙いを定めることが可能になりました。その結果、最適な切断面でスライスされたサンプルの分析や、さらに表面を電子顕微鏡で観察し比較することで、微粒子表面が受けた太陽風(太陽からのイオン粒子)の影響「宇宙風化」の進み具合を効率的に調べることができたのです。

 

 「初期分析サンプルを受け取ってからは、もう毎日必死だった。数少ない上に二度と手に入らない微粒子を複数のチームが分け合って分析する、スピードも求められる中で研究者全体のチームワークが非常に重要だった。」と土山教授は当時を振り返ります。

 

 初期分析サンプルの配布が始まったのが2011年1月下旬、わずか2カ月半後の3月11日には分析結果の一部を月惑星科学会議(アメリカ・ヒューストン)で発表することが決まっていたからです。4月下旬には初期分析チームがそろって6本の学術論文をScience誌に投稿し、1か月後についにアクセプトされて(論文誌から採録決定通知をもらって)ようやく安堵したといいます。

 

サイエンス 8月26日号表紙
Credit: American Association for the Advancement of Science (AAAS)

 2011年8月26日号の米科学誌「Science」に、6本の論文が揃って掲載されました。そして同誌の表紙を、サンプル収納容器から採集されたイトカワ微粒子の写真が飾りました。

 

 一連の分析により土山教授のチームが明らかにした成果は主に二つです。一つは小惑星イトカワを構成する物質がわかり、隕石は小惑星から剥がれて地球に降ってきたというこれまでの推定が正しいと証明したこと。もう一つは、粒子の3次元での形を分析してみると、角が鋭い粒子だけでなく、角が丸くなった粒子の存在が確認されたこと。これは、隕石の衝突による破砕によってできた角張った粒子同士が、次の新しい隕石衝突によって起こされた振動でこすれ合って摩耗したものと考えられています。

 

 それ以外にも、土山教授らは粒子が過去に受けた熱の影響や粒子全体の密度を明らかにしました。その後の研究で「イトカワ」のもとになった「母天体」が45億年前に誕生し、13億年前に別の小惑星と衝突し、一部が再び集まって今のイトカワができたことが明らかになってきました。従来の天文観測や隕石の分析だけでは決してわからなかったことです。

 

宇宙で起きる現象を実験室で再現
― 再現実験と理論を組み合わせて太陽系の起源解明に迫る ―

 

 遥か宇宙で気が遠くなるほど長い時間をかけて起こった複雑な現象が、イトカワ微粒子のサンプル分析によって少しずつ明らかになってきました。そして、土山教授は、「宇宙で起きる現象を実験室で再現する」という全く別の角度からも、これらの現象の解明に挑んでいます。

 

 再現実験には、小惑星や隕石と同じ結晶構造や化学組成からできている地球上の天然の鉱物が使われます。小惑星が衝突でどのように壊れて、どのような形をもった破片ができるのかを調べる衝突再現実験、イトカワの微粒子に見られた摩耗の再現実験、太陽風(太陽から噴き出すイオンの粒子)を模して発生させたイオンビームを真空中で鉱物に照射して表層に与える影響を調べる「宇宙風化」の再現実験など多岐にわたります。

 

 「私は、もともと実験屋さんです。最新技術による分析に基づいて物質の生成・進化モデルを設定し、そのプロセスを再現する実験をできるだけ単純な条件で実施して要素を絞り込み、考察することが専門です。」

 

 しかし、あくまでも実験室で人工的に発生させる模擬実験。タイムスケールやサイズスケールを再現することはできません。太陽風を再現するときは、宇宙でハヤブサ粒子が1000年かけて起こしている変化を、例えば10時間で再現することになります。その場合照射するイオン粒子の単位時間あたりの数は実際の太陽風の 100万倍にもなってしまいます。衝突実験でも同様に、実験室で巨大な天体に衝突させることは不可能です。

 

 「スケールの違いは犠牲にしても、再現実験と理論を組み合わせることでどのような固体物質が星の周囲で作られ、星間空間でどのような変成を受け、どのような物質が太陽系の固体原材料物質となり、現在見られる固体物質になったかについて、真実に近づきたい。」

 

隕石に閉じ込められた46憶年前の水
― 地球の海は、いつどこから来たのか? ―

 

 宇宙の物質科学の解明に、様々なアプローチから取り組んできた土山教授には、いま、自分の目で見つけたいものがあります。それは「炭素質コンドライト」という種類の隕石の鉱物中に閉じ込められた水。

 

 太陽系には多くの氷が存在しています。約46億年前に太陽系が誕生する過程で、氷は有機物とともに、惑星に成長できなかった小惑星の成分として取り込まれました。その後、氷が融けて岩石と反応(水質変成)し鉱物の結晶中に水分子や水酸化物イオン(OH-)の形で現在も残っているのです。液体の水を発見し、その同位体組成、水に溶けていたはずの塩やその濃度を調べることで、水質変成をもたらした46億年前の水の特徴を明らかにすることができるはずだと土山教授は考えています。

 

 火星と木星の間には60万個以上の小惑星が集中して存在している「小惑星帯」があります。太陽からの距離が近いところには岩石質の「S型小惑星」が多く存在し、はやぶさが探査したイトカワもこれにあたります。地球に落ちてくる隕石の8割を占める「普通コンドライト」と呼ばれる岩石質の隕石のふるさとです。一方、太陽から離れたところにあるのが、土山教授が注目する炭素質コンドライトの母天体とされる「C型小惑星」で、ここから地球上に隕石として降ってくるものは数が少なく貴重です。

 

 最近では、この炭素質コンドライトの中に水質変成の影響をほとんど受けていないものが見つかっています。つまり熱だけでなく水による影響をほとんど受けずに太陽系が作られた当時から様子を残す最も「生」の状態の隕石です。

 

 さらに注目すべきは、空隙率が50%くらいという多孔質な欠片を、水質変成の影響をほとんど受けていない炭素質コンドライト中に発見したこと。隙間が多く存在する部分を切断すると隙間には削りかすが入るので、土山教授の専門であるCT分析が有効です。

 土山教授は、これらの穴にはかつて氷が入っていたのではないかと考えています。空隙率の高いスカスカな部分は周りを固い鉱物で覆われています。隕石が固まった当時、この隙間に氷が入っていないと隙間が潰れてしまっているはずだからです。この氷は融けて周囲にわずかな水質変成をもたらしたと考えています。今のところ、流体の存在は確認できていませんが、土山教授の「水」探しはまだまだこれからも続きます。

 

 そして、「はやぶさ2」が目指しているのがC型小惑星リュウグウです。有機物や含水鉱物を多く含んでいると期待されています。2020年の帰還まであと3年。2019年には京都大学教授として定年を迎える土山教授ですが「こんな面白いことやめられない、生きているうちはずっと続けたい。」と、初期分析チームにも加わり、意欲に燃えています。

 「はやぶさ2」がリュウグウから持ち帰るサンプルは、地球に降ってくる隕石とは違い、地球での汚染が無く元の天体が明らかです。太陽系の原材料物質解明につながる発見の期待が高まります。もしかしたら、46億年前の水も見つかるかもしれません。「はやぶさ2」帰還を心待ちに、土山教授はサンプル分析のための準備を着々と進めています。