-データを超高速処理する光電子デバイスの開発に期待-

廣理英基 高等研究院物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)特定拠点准教授、田中耕一郎 本研究科物理学・宇宙物理学専攻教授、沖本洋一 東京工業大学准教授、腰原伸也 同教授、東正樹 同教授らの研究グループは、ビスマスとコバルトを含むセラミックスにテラヘルツ光(波長がサブミリメートルの遠赤外光)を照射すれば、非線形光学特性(光波長の変換、光の増幅、光強度に応じた屈折率変化などの光学的な非線形現象を発現する性質)が5割以上増強する現象を初めて発見しました。

 

本研究成果は、2017年5月11日に米国の科学誌「Physical Review Applied」オンライン版に掲載されました。

研究者からのコメント

 本研究によって、テラヘルツ電磁波の照射が極性材料の波長変換特性を大きく向上できることを明らかにしました。テラヘルツ電磁波による物質科学の新しい局面を切り拓いただけでなく、室温かつ非接触での新しい非線形光学材料の性能指数向上技術、また超高速データ処理のための新たな光電子デバイス開発につながることが期待されます。

本研究成果のポイント

  • 強誘電体に代表される極性材料は、レーザー光の波長を変換する素子として利用され、波長変換の効率が高い材料の合成が求められる。
  • ビスマスとコバルトを含むセラミックスに1テラヘルツ帯に周波数域を持つ電磁波パルス(波長がサブミリメートルの電磁波)を照射すると、波長変換効率が5割以上増大する現象を世界で初めて発見した。
  • 室温かつ非接触、100フェムト秒(1フェムト秒は10-15秒)以内の超高速で非線形光学材料の性能指数を向上させる新しい方法として期待される。
 

概要

強誘電体を代表とする極性材料が果たす役割は多くの分野で重要になってきました。中でも非線形光学材料への応用は、高強度レーザーの波長を変えるために不可欠の技術であり、光機能性開発の分野で注目されています。一般に極性材料は、その反転対称性の破れた独自の結晶構造に由来する「二次の非線形感受率」が存在し、入射した光の周波数の二倍(波長が半分)の光を発生させることができます。これは第二次高調波発生(SHG)と呼ばれ、非線形光学材料の最も重要な応用例の一つであり、レーザーにおける波長変換技術にも利用されます。発生するSHG強度が大きい、すなわち性能指数が高い非線形光学材料の開発は重要な課題となっていました。

 

本研究グループは、極性構造を持つ酸化物セラミックスに、およそ1テラヘルツ(波長に換算すると300µm)に周波数域を持つレーザパルスを照射することにより、室温で第二次高調波強度が5割以上増大する現象を明らかにしました。これは、瞬間的な高電場印加によって極性材料の波長変換特性が大きく向上したことを示しています。室温かつ非接触、超高速での新しい非線形光学材料の性能指数向上や巨大データ高速処理に必要な、超高速光電子デバイス開発への応用が強く期待されます。

図:高強度テラヘルツパルスの照射によって、酸化物セラミックスBiCoO3から発生する第二高調波(青色)が増大する様子を示す模式図
 

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