人類、百年がかりの宿題

人類、百年がかりの宿題

神野 裕貴

 

 2015年、アメリカ。世界有数の科学大国であるこの地で、50年の構想をもとに20カ国1000人以上の研究者が関わる一大プロジェクトが物理学界の巨人アルバート・アインシュタインの百年の予言に強力な裏付けを与えたことをご存じだろうか?

 

 1915年、アインシュタインはそれまでのニュートン力学的な力の概念を転換する一般相対性理論を発表した。その理論の帰結として予言される現象の一つに重力波がある。重力波とは空間の歪みが波として光の速さで伝播する現象で、質量をもった物体が加速されたときに重力波は発生する。しかし、重力波を観測しようにもその信号は地球に届くころには非常に微弱なものになっており、検出には工夫が必要であった。

 

 1992年、物理学者レイナー・ワイスやキップ・ソーンらは国際共同プロジェクトLIGO(the Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory レーザー干渉重力波検出プロジェクト)を設立した。ルイジアナ州リビングストンとワシントン州ハンフォード・サイトに設置されたレーザー干渉計という装置を用いることによって微弱な重力波を検出することに成功したのである。レーザー干渉計ではビームスプリッタによって分けられたレーザー光の干渉を用いる。重力波がやってくると2つのレーザー光の進む空間が伸び縮みするので、レーザー光の干渉の仕方にずれが生じる。こうすることによって重力波の信号を検出するのである。2015年に検出されたのは13億光年離れた2つのブラックホールの衝突の際に発生した重力波であった。

 

 重力波の検出は人類にとってどのような意味を持つか。この先重力波観測の知識・技術がより確立されてゆけば、可視光やX線などの電磁波では観測することが難しかった天体現象を重力波の観測によって解析することができる。重力波天文学の幕開けである。

 

 「LIGO検出器と重力波の観測に対する決定的貢献」によってレイナー・ワイス、バリー・バリッシュ、キップ・ソーンの三氏に与えられた2017年のノーベル物理学賞。その受賞は千人規模の科学者の長年にわたる協働によって人類の百年越しの夢が現実になったとともに、宇宙に対する人類の新たな「目」が開かれたことに対するものであるといえるだろう。