草場 哲

 

飛行場の荷物チェック、船舶や飛行機に用いられるレーダー、医療用MRI、果物の甘さを図る糖度計…様々な電磁波が物体や物質の特徴を調べるのに多く活用されています。電磁波は波長によってX線から電波までいくつかに分類されていますが、物質を通り抜けやすい、遠くまで飛びやすいなどのそれぞれの特徴を活かして用いられています。

 

テラヘルツ波は、数百マイクロメートル程度の光と電波の中間の波長を持つ電磁波で、最近になってよい光源や検出器が開発されたことから、現在盛んに研究されている波長領域です。金属以外の物質を比較的通り抜けやすい性質のため、食品やその他材料などの非破壊検査への利用が目指されており、テラヘルツ波ボディスキャナ等も開発されています。また様々な分子の振動、特に水によく吸収されることから、生体分子をはじめとした化学分析などへの応用が期待されています。

 

一方、テラヘルツ波は光と比較して、細胞などの小さなものを調べるのには不向きでした。これは、通常、顕微鏡の分解能が回折現象で波長程度となるためです。そこで京都大学ではテラヘルツ波近接場顕微鏡という新たな顕微鏡を開発することで、微小試料の研究に挑んでいます。世界に唯一のこの顕微鏡は、近接場と呼ばれる、観察する物体のすぐ近くから発せられるテラヘルツ波を観察する方法を用いることで、波長の数十分の1の分解能を達成しています。