平賀 椋太

 

私たちは電子というものをなんとなく知っています。電子がある、ということつまり電子論をもうすこし詳しく言い換えれば、世の中の電気は、およそ1.6かける10 のマイナス19 乗クーロンという、一定の電気の量を持った粒のやりとりとして説明できるということを意味します。電気は必ず、電子何個分かの量しか移動せず、たとえば半端な3 分の1 個分などにはならない、というのがこの電子論の主張です。

 

この電子一個分の数値を1900 年ごろに計測していたのが、アメリカの物理学者ロバート・ミリカンです。彼は指導していた大学院生とともに、つぎのような実験を行いました。霧吹きから出した油の粒にX 線を当てて電気を帯びさせます。電気で髪の毛が下敷きにくっつくような要領で、油の粒の重さとつりあってこれが空中で浮かぶような電気の力をかけます。この重さと力の関係から計算できる、油の粒の帯びた電気量が、かならず先ほど挙げた電子の電気の整数倍になることを確かめました。

 

当時ミリカンにはエーレンハルトというライバルがいて、同様の実験を行って電子には持っている電気の量がちがう電子と副電子の二種類があると主張していました。ミリカンはこれに反論すべく、何度も実験を行って、しまいにはうまく計測できたデータだけ選んで公表したとまで言われています。

 

彼のとったデータの選択という手法は科学としてふさわしくありませんが、現在の私たちから見れば、ミリカンの仮説はアインシュタインなどの理論との整合性もよく、すぐれているのは間違いないのです。