山方 優子

 

2015 年のノーベル生理学・医学賞に北里大学特別栄誉教授の大村智氏が選出された。大村氏は、微生物の研究を熱帯地方で特有な病気の特効薬である「イベルメクチン」の開発につなげ、発展途上国において多くの人々を救い出した功績が高く評価された。

 

大村氏は、土壌中の微生物が生産する有用な天然有機化合物の探索研究を続け、これまでに450 種を超える新たな化合物を発見し、その化学構造を解明した。そして、25 種以上が医薬品や農薬、生命現象を解明するための研究試薬として世界中で実用化されている。この中で最も注目されているのが抗寄生虫薬「イベルメクチン」である。静岡県伊東市の土壌にいた微生物から生み出された薬であり、この微生物は土の中にいる寄生虫を駆除する物質を作り出すという特性を持っている。大村氏はこれらを培養することに成功し、作り出された有益な化学物質の化学構造をさらに効果的に変えて薬にしたのが、共同受賞のウィリアム・キャンベル氏である。

 

イベルメクチンは、線虫や昆虫など無脊椎動物の寄生虫に特有のたんぱく質の働きを阻害するため、人間などの哺乳類にはほとんど害がない。一般的に、生物の細胞外液にはNa+とCl-イオンが多く存在するのに対して、細胞内にはNa+が少量でK+が大量に存在し、主にNa+とK+が濃度差に応じて細胞内外を行き来することで細胞内の電位を保っていることが知られている。しかし、イベルメクチンは、無脊椎動物の細胞膜の外側にのみ存在するグルタミン酸作動性Cl-に選択的に結合することでCl-に対する細胞膜の透過性を上昇させ、細胞内外の電位差を生み、寄生虫が麻痺を起こすことで死滅させるという役割を果たしているのである。