平賀 椋太

 

今回のノーベル化学賞は「DNA 修復の仕組みについての研究」という業績について受賞が決まりました。DNA の損傷はがんや細胞の死につながるので、その修復に関する研究はたいへん重要です。何十年にもわたる研究の結果の一部を紹介したいと思います。

 

DNA は生物の全てを記録している大切な分子です。A、T、G、C、四種類の塩基がつらなってできていて、四文字で書かれた文章としてDNA は存在しています。塩基の中でもA とT、G とC はペアになっていてよく結合することから、たとえばTTAGGG とAATCCC といったような、全体としてよく結合する一組のDNA の鎖が二つ結合した状態で保存されています。こうしてペアで持っていることで、どこかの塩基が欠けてもペアをもとにして修復することができるのです。

 

DNA は紫外線などありふれた原因で損傷してしまいます。それに対する修復のほんの一例として、塩基除去修復という塩基ひとつが壊れたのを直す生体の仕組みを、今回は紹介したいと思います。損傷したDNA は、五つの酵素を使って、傷んだ塩基を見つけて目印をつけ、二つの酵素で取り除き、正しいペアを作るように塩基をうめて、最後に形を整えるというように修復されます。

 

数々の実験が行われていて、たとえば正しいペアをうめる酵素DNA ポリメラーゼβ が存在しない細胞は、塩基除去修復が直すような一塩基の損傷に弱いだとか、五つの酵素のうちポリメラーゼがない環境ではDNA が埋められず損傷部分で切れるなど、さまざまな証拠が積み重ねられ、ノーベル賞受賞に至ったのです。