西村 理沙

 

2015 年のノーベル医学生理学賞は、伝染病の画期的な治療法の発見に対して三人の研究者に授与されることが決まりました。そのうちの一人、屠呦呦(TuYouyou)氏(1930 年生まれ、中国)は、現在標準的なマラリア治療薬に用いられているアーテミシニンを発見した人物です。

 

マラリアは病原体となる寄生虫が蚊の吸血を介して人に感染することで発症する伝染病です。高熱が主な症状ですが重度になると死亡の危険もあります。熱帯域を中心に年間約2 億人が感染し、60 万人が命を落としています。アーテミシニンに由来する薬剤は2000 年から標準薬として使われ、全世界のマラリア患者の死亡率を20%以上下げたと推測されています。

 

マラリア原虫は赤血球に寄生して増殖します。アーテミシニンは赤血球にある鉄と反応することで強い酸化力を持つ分子を産生し、マラリア原虫を死滅させると考えられています。実際のメカニズムはまだ不明な点も多く、研究が続けられています。

 

屠氏が当時の国家機密プロジェクトであるマラリア研究のリーダーに任命されたのは、1969 年のことでした。屠氏らは古くからマラリアの症状に効くといわれる200 種類以上の漢方薬に着目し、有効性を検証しました。結果、青蒿(セイコウ)という薬草のみが有効であり、1972 年、その抽出物がマラリア原虫の増殖を抑制することを発見しました。これがアーテミシニンです。

 

完全な予防法がないことや、アーテミシニンが効かない原虫も発見されていることから、今なおマラリアは深刻な問題です。今後、アーテミシニンが原虫を攻撃する仕組みの解明が進めば、新薬の開発やマラリアの予防法の発見につながることが期待されています。