竹村 毬乃

 

昨年アメリカ医学会で最も権威のあるラスカー賞を受賞した研究者がいる。理学部生物物理学教室の森和俊教授だ。研究テーマは「小胞体ストレス応答」である。

 

小胞体は細胞の中に入っている袋のようなもので、未完成のタンパク質が入ってくると袋の中で完成させ適切な場所に送り出すことから、タンパク質の通路のようなものだと考えられていた。しかし森教授の研究によって、小胞体のさらに大きな役割が明らかになったのである。

 

小胞体ストレス応答とは、小胞体に未完成タンパク質が大量に入り、たくさん働かないといけないというストレスがかかった時の反応だ。①タンパク質合成量の減少、②タンパク質分解の促進、③タンパク質を完成させるために必要な分子の増加、という3 つの方法で正常な状態に戻ろうとする。

 

詳細に見ると、小胞体膜にある受容体が未完成のタンパク質と結合するとストレスがかかっていると認識され、受容体が活性化することでタンパク質の生産量を調節する転写因子という物質が働き出す。さらに転写因子はスプライシングという複雑な仕組みで制御されていることがわかった。

 

森教授はこうした成果だけではなく、以前はタンパク質の通り道としか考えられていなかった小胞体の見方を、独自の方法でストレスを感知し細胞の生存に深く関わる細胞内小器官であるという認識に一変させたことで評価されており、今最もノーベル賞に近い研究者であると言われている。