企画名

本物を見て考えよう!:脊椎動物の胚観察から数理の可能性を探る

参加教員

教員名 職名 所属
高瀬 悠太 MACS特定助教 生物科学専攻
高橋 淑子 教授 生物科学専攻
國府 寛司 教授 数学・数理解析専攻
荒木 武昭 准教授 物理学・宇宙物理学専攻

関連専攻

専攻名  
数学・数理解析
物理学・宇宙物理学
地球惑星科学
化学
生物科学
●:参加教員の専門分野(所属専攻)・学生を募集する主な分野(専攻)
○:学生・教員から希望があれば参加可能な分野(専攻)
 

実施期間(開講曜日・時間等)

年度・期 開講曜日 時間 場所
平成29年度・通年 未定・隔週に 1 回程度 未定 未定

企画要旨・目的

本企画では、数理と生物科学との分野横断の実例を学びつつ、脊椎動物の生きた胚を 観察し、発生過程で起こる様々な現象について数理モデルで説明できる可能性を議論す る。扱う生物は、発生過程を直接観察でき、かつ未経験者でも比較的操作し易いニワト リ胚を予定している。前期には、発生現象を数理的に解析した研究論文をいくつか輪読 すると共に、その発生現象の「本物」をニワトリ胚で観察し、数理と生物科学との分野 横断の実例を学ぶ。後期には、ニワトリ胚の観察実習を通して、興味をもつ発生現象を 自由に探索する。同時に、興味をもった発生現象について、数理モデルで説明できる可 能性の議論・検証を重ね、新しいモデル提唱に向けたアイデアの醸成を目指す。 前期の輪読で扱う論文および観察する発生現象として、反応拡散モデルで考える「皮 膚の鳥肌や色素細胞の分布パターン 1, 2」や「手足の指形成 3, 4」を考えている。

[1] “BMP2 and BMP7 play antagonistic roles in feather induction, F Michon et al., Development (2008)”
[2] “Cryptic Patterning of Avian Skin Confers a Developmental Facility for Loss of Neck Feathering, C Mou et al., PLoS Biology (2011)”
[3] “Hox Genes Regulate Digit Patterning by Controlling the Wavelength of a Turing-Type Mechanism, R. Sheth et al., Science (2012)”
[4] “Digit patterning is controlled by a Bmp-Sox9-Wnt Turing network modulated by morphogen gradients, J. Raspopovic et al., Science (2014)

 

問い合わせ先

高瀬悠太 yu-takase*develop.zool.kyoto-u.ac.jp
(*を@に変えてください)
 

スタディグループへの登録は締め切りました。
関心のある方は macs *sci.kyoto-u.ac.jp(*を@に変えてください)までご連絡ください。

 


活動報告

本SGでは、数理と生物科学との分野横断の実例を学ぶことを目的に、F Michon他による "BMP2 and BMP7 play antagonistic roles in feather induction (Development 2008)” およびAE Shyer他による "Emergent cellular self-organization and mechanosensation initiate follicle pattern in the avian skin (Science 2017)”の輪読を行った。これらの論文は、ニワトリ胚の皮膚にできるぶつぶつ構造(羽原基)の形成パターンについて、「分泌因子群の反応拡散モデル(前者)」と「細胞凝集による物理的な変化(後者)」による検証を行っており、一つの発生現象についてケミカルとメカニカルの両方の視点を学ぶことができた。参加学生は生物系の学生のみであったが、数学・物理の参加教員たちに論文で出てくる数理を解説していただいたため、想定以上に内容を理解できた。また、本SGではニワトリ胚の観察実習として、前期は羽原基の形成時期・場所の観察を、後期は皮膚組織の培養および後者の論文の再現実験(物理的要素の変化させた際の羽原基形成への影響解析)を行った。実際に自分の手を動かしてみることで、論文の写真からでは分からない、本物の美しさや複雑さ、一つの実験データを出すことの難しさや実験が上手くいった時の喜びなどを感じることができたのではないだろうか。

 

本SGは当初、反応拡散モデル(ケミカルな要素)に焦点を当てるつもりだったが、羽原基の解析にメカニカルな要素を初めて持ち込んだ後者の論文に出会い、方向性をシフトした。結果的に、このシフトは大成功だったと思う。これまで、発生現象の解析において物理的なパラメーターの測定や実験的に変化させたりするのは、特殊な装置がないと困難だと思っていたが、その固定観念はかなり壊された。来年度の実習では、輪読する論文の再現のみならず、自分たちが注目した現象に対してメカニカルな要素を変化させた際の影響の解析も行いたい。

 

3月には、石松愛 博士(Harvard Medical School)に脊椎動物の体節形成に関する研究について講演いただいた。研究内容そのものに加えて、論文を読むだけではわからない数理と実験とを組み合わせた解析の実際など、第一線で戦っている方だからこその話を聞くことができた。

 

参加メンバー

氏名 所属 職名・学年
高瀬 悠太(代表教員) 生物科学専攻 MACS特定助教
高橋 淑子 生物科学専攻 教授
國府 寛司 数学・数理解析専攻 教授
荒木 武昭 物理学・宇宙物理学専攻 准教授
福田 浩也 理学部 生物系 B4
吉田 純生 理学部 生物系 B3
渡邊 絵美理 理学部 生物系 B3
多胡 徹也 理学部 B2
司 悠真 理学部 B2

 ニワトリ胚の羽芽(feather bud)発生観察 (2017年8月4日)

スタディグループ9「本物を見て考えよう!:脊椎動物の胚観察から数理の可能性を探る」では、本グループの教材論文における研究対象であったニワトリ胚の羽芽(feather bud)の発生を実際に観察しました。

 

参加学生たち(主に学部3回生)は、自分達の手で孵卵6〜16日目の本物のニワトリ胚を解剖し、背中や太もも部分の表皮における羽芽の発生過程を自分たちの手と眼で観察しました。加えて、後期に行う実験に向けた、トリ胚表皮の培養にも挑戦するなど、各々が有意義な時間を過ごしました。(文責 高瀬悠太)

 

 

 

 


 トリ胚実習(皮膚組織の培養実験による羽原基観察) (2018年2月13日〜15日)

スタディグループ9「本物を見て考えよう!:脊椎動物の胚観察から数理の可能性を探る」では、本SGの後期題材論文 ”Emergent cellular self-organization and mechanosensation initiate follicle pattern in the avian skin (Science 2017)” で行われていたトリ胚皮膚組織の培養実験を試みました。参加学生たちは自分達の手で、孵卵6日目のニワトリ胚を解剖し、背中の皮膚組織(表皮+真皮)を切り出し、ディッシュ上で培養しました。そして、細胞の凝集度に影響を与える薬剤を添加し、羽原基(Feather bud)が形成されるか、形成される場合の分布パターンはどうなるのか、を観察しました。

 

実際に皮膚組織の切り出しを試みると、胚が小さくて切り出しにくい、皮膚組織の下にある脊椎骨や肋骨が上手く剥がせないなど、皮膚組織のみを培養するのはなかなか難しかったようで、論文の図では簡単に示されているデータの裏に、実験の難しさが隠れていることを体感したようです。皮膚組織の培養そのものも一筋縄にはいかず、培養した組織全体で羽原基が観察される、とまでいきませんでしたが、培養2日目に羽原基のパターンが部分的に形成され、その形成パターンが薬剤によって変化することが観察できました(写真)。

 

今回の実習経験を通して、参加学生たちが自分たちの手で「本物」を導く難しさや成功の醍醐味などを実感してくれたと感じます。(文責 高瀬悠太)