第2回 MACS懇談会

日時

2016年12月19日(月曜日)16時30分〜

 

場所

理学研究科1号館5階 532号室

 

プログラム

16:30~
(1人20分程度)
「数論的不変式論のはなし」
石塚 裕大(理学研究科 数学・数理解析専攻 MACS特定助教)
「多要素システムのミクロとマクロを繋ぐ」
太田 洋輝(理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻 MACS特定助教)
「血管リモデリングの原理解明:数理と実験から解き明かす血流メカノストレスへの応答機構」
高瀬 悠太(理学研究科 生物科学専攻 動物学教室 MACS 特定助教)
18:00頃~ 自由討論・懇親会(学生参加費:1,000円)
 

備考

*理学部・理学研究科の学生・教職員はどなたでもご参加いただけます。お気軽にご参加ください。

*2017年2月17日(金)に MACS 成果発表会を予定しています。詳細は後日当サイトに掲載します。


第2回MACS懇談会(2016年12月19日)

石塚 裕大 助教
 
太田 洋輝 助教
 
高瀬 悠太 助教

第2回MACS懇談会では、2016年夏季に着任した3人のMACS特定助教が、自身の研究を紹介しました。その後の懇親会では、様々な分野の学部生、院生、教員を交えて、専攻の枠を超えた活発な意見交換が行われました。

 

「数論的不変式論のはなし」

石塚 裕大(理学研究科 数学・数理解析専攻)

 

 整数論には「重要だが、理論的にも計算するにも難しい対象」が多く現れます。表題の数論的不変式論Arithmetic Invariant Theoryは、それらの研究対象を線形代数の言葉で解釈し直し、その解釈を用いて元の研究対象を調べるという理論です。この講演では4次方程式(4次体)の例などを通じて、それらがどのように結びつくかの説明を試みました。また応用として、「5次方程式の解は、一般には代数的に(係数のベキ根と四則演算を有限回用いたものとして)表すことができない」というルフィニやアーベルの結果を、「ではどれくらいの5次方程式が代数的に解けないのか?(どれくらいの5次体がベキ根拡大ではないのか?)」という定量的な問題にした結果を紹介しました。

 講演後、「なぜ5次方程式を解くのか」という趣旨の質問をいただき、回答に詰まりました。うろ覚えですが、「解きたくなったから」という趣旨の回答をした気がします。実際、歴史的にも、2次方程式から4次方程式にはベキ根を用いた解の公式が発見されていましたから、「なら5次方程式はどうか」と考えていたのではないかと思います。また懇親会では「どこまでも厳密な解の性質を調べるんですね」という感想をいただき、お互いの体験を交えて問題意識の違いについて意見を交換しました。こうした問題意識の違いや根本的な動機について、実際的な体験に基づいた交流や議論を行うのは非常にいい刺激になりました。「刺激を受けて5次方程式について勉強した」という声もいただいたので、今度もお互いに刺激を受けるような試みを続けていきたいと考えています。

 

「多要素システムのミクロとマクロを繋ぐ」

太田 洋輝(理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻)

 

 感染ネットワークを例として、多要素システムのミクロとマクロをつなぐ順問題と逆問題を、グラフ上の確率過程の枠組みで紹介しました。この系で、順問題はパンデミックが起きる条件、逆問題は感染起源の推定と関係します。またグラフ上の確率過程における順問題の別例として、サイクリックな捕食者被食者関係を持つ単純な生態系において種が絶滅する条件、についても紹介しました。

 質疑応答や懇親会では、他のより現実世界で観測されやすい多要素システムまた他の参加者自身の研究への応用可能性について尋ねられたのですが、なかなかすぐに結びつくわけではないというのが率直な感想です。このような「はっ」とするような視点を見つける機会は貴重ですので、次回からもむしろ積極的に“異分野交流”を続けていければと思いました。

 

「血管リモデリングの原理解明:数理と実験から解き明かす血流メカノストレスへの応答機構」

高瀬 悠太(理学研究科 生物科学専攻 動物学教室)

 

 血管ネットワークは全身に広く分布し、酸素や老廃物を運搬するなど、高次生命活動にとって非常に重要な役割をもちます。血管ネットワークの形成過程では、1)まず無秩序なメッシュ状の血管網が作られ、2)続いて「血管リモデリング」と呼ばれるダイナミックな巨視的変化が起こり、3)最終的に秩序だった血管パターンが完成します。このなかで、血管リモデリングは血管形成過程において中核的なステップであると考えられますが、そのしくみはほとんど分かっていません。今回、この血管リモデリングに関して、卵の中のニワトリの赤ちゃん(ニワトリ胚)の周囲に広がる血管網に注目し、血流の変化→血管を構成する「細胞」の挙動変化→血管「組織」の変化、という階層をまたいだ関連性について、実験から得られた結果を紹介しました。

 質疑応答では、血管と河川のリモデリング結果との類似性(強い流れがかかる部分に太いものができる)から、「生き物らしさとは何か?」という質問をいただき、聴衆も含めて盛り上がったように感じました。専攻内だけのセミナーではこういった趣旨の質問は出にくいので、MACSならではの議論ができたのではないかと思いました。また、懇親会では、助教3人の発表について「研究対象の具体性が全く異なり、専攻の違いを強く感じた」という趣旨のコメントをいただきました。今後は、MACS関係者でこの違いを認識・共有し、分野間交流をより深められる企画を考えたいです。