スタディグループ([SG2021-10]-[SG2021-11])

スタディグループ([SG2021-10]-[SG2021-11])

[SG2021-10]自然放射線の時系列データを読み解く

活動報告

活動目的・内容

 時系列データを丁寧に読み解くことは、数理的なテーマとしてだけではなく、物理学研究における重要な解析であり、環境問題や社会問題の解決における欠かせない手法になっている。たとえば、時系列データの解析は天文学であれば、恒星やパルサーの自転周期の発見や、太陽黒点数の長期変動の観測、測定のノイズの取り扱いなど実験科学の重要な実践的テーマを多く含んでいる。時系列データを扱う多様なノウハウを学ぶことは、科学の研究者になる際の重要な武器になるだけではなく、データサイエンティストとして社会で活躍するための数理的知識な欠かせない基礎となる。
 本スタディグループでは、理化学研究所の榎戸極限自然現象理研白眉研究チームと連携し、自然放射線(環境放射線)の測定を簡単に行える可搬型の測定器を用いて、身の回りにある多様な自然放射線の時系列データを取得し、その解析を通して、時系列データの扱いを学ぶ。時系列データはさまざまな方法で既に取得されたものがウェブ上で公開されているが、すでに加工されて綺麗なデータではなく、自分でデータ取得を行い生データからの前処理を行うことも重視する。このように、時系列データの解析と解釈を軸に、MACS教育プログラムが掲げる「数理を基盤として理学5分野を横断する融合研究を推進し,狙ってもできない新たな学問分野の自発的創出」を目指す。

 

活動成果・自己評価

【活動成果】本スタディグループでは、自然放射線の時系列データを読み解くために放射線検出器(コガモ)を使い環境放射線の変動を研究した。コガモ検出器とは、0.2 – 12 MeVのガンマ線を検出する持ち運び可能な小型の検出器である。このコガモ装置を使って、雷雲通過時のガンマ線の増光を検出することに加えて、、さまざまな環境下(コンクリート遮蔽、加速器ビームの近く、恒温槽)での自然放射線を測定した。加えて、同じコガモ検出器でモニターしている気温・湿度・温度との相関を調べたところ、気圧と高エネルギー事象に負の相関があることが明らかになった。この結果は、地球大気によって宇宙線が遮蔽されている影響と一致している。
 さらには、2022年1月15日13時10分ごろにトンガ噴火時の気圧の変化もとらえることができ、この気圧の変化量からおよそ10の19乗ジュール程度のエネルギーを放出していることを明らかにした。また、手のひらサイズの放射線検出器(アカクラゲ)の時系列データ取得にも着手している。

【自己評価】熱意のある学生たちが、研究室配属に先駆けて研究を進める機会を提供できることはとても素晴らしいと感じた。教員たちとの議論を通じて、研究の進め方や着眼点、解析手法、発表資料作りおよび質疑応答といった実践的な知識を学ぶことができ、即戦力として活躍できる人材育成に貢献できたのではないかと考えている。

 

参加メンバー

氏名 所属 職名・学年
藤井 俊博(代表教員) 白眉センター・理学研究科 特定助教
榎戸 輝揚 理化学研究所 開拓研究本部 榎戸極限自然現象理研白眉研究チーム  
矢野隆之 物理学・宇宙物理学専攻 B4
渡邉大師 その他(工学部情報学科) B3
その他:青山学院大学の学部生1名
 
 

[SG2021-11]生命流体×流線トポロジーデータ解析(TFDA):生命のつくる流れとトポロジー

活動報告

活動目的・内容

 空を飛ぶトンボや蝶,海を泳ぐ魚,生命は自らの体を動かすことによって周囲に流れを作り出して飛翔や推進を実現しています.現代のコンピューターを用いた大規模シミュレーションによって,生命体が作り出す流れと生み出される力の関係などが定量的に調べられています.また,近年は計測技術で流れ場が可視化できるようになってもいます.しかし,実際に生命体によって作り出された流れは,大小様々なスケールの流れ構造が複雑に絡み合っており,それらの流れの構造がどのような形でこうした運動を効果的なものにしているかはそれほど明確ではありません.そのため,様々な観点でこうした生物流体の流れを捉えることが必要となっています.一方,流線トポロジー解析は,二次元ベクトル場の作り出す流れのトポロジカルな構造をCOT表現と呼ばれる文字列で表現される離散平面グラフを一意に割り当てて分類する数学的手法で近年開発されたものです.この解析を様々な流線のデータに使うことで,データ解析が可能になっており,これを流線トポロジーデータ解析(Topological Flow Data Analysis=TFDA)として大気気象のデータや心臓血流などに応用されはじめており,流線トポロジーで 複雑な流れの「おおまかな」構造を捉えることが有効であることが知られつつあります.今年度は数理解析研究所で生命流体をフィーチャーした国際研究が数多く開催されることになっています.これに合わせて,本SGではこのTFDAの技術を生物流体の数値計算データや計測データに使って,何か面白いことがわからないかを考えました.TFDAの理論の簡単な理論とTFDAのPythonソフトウェア(Psciclone)のチュートリアルで技術を習得した後,後期には参加者がデータを持ち寄りそれに対して適用しました.

 

活動成果・自己評価

【活動成果】2021 年9 月10 日に横山知郎准教授(岐阜大学)と宇田智紀助教 (東北大学)を講師としてTFDA チュートリアルを実施した.その後,月 1 回程度の定期ミーティングを持ち,参加者がそれぞれデータを持ちよって TFDA の適用可能性を検討した.残念ながら,最後まで適用できた例はなかったが,生命系の多くのデータに検討を行った.特に皮膜オルガネラの細胞内の流れと葉序パターンを記述する反応拡散方程式の数値計算結果に適用できる可能性があり,このSG終了後も継続的に検討を加えることにしている.

【自己評価】チュートリアルは多くの参加者から好評であった.一方で,今回は物理現象としての流体の問題ではなく生命流体という流体力学的にも未知の部分が多い分野の問題をターゲットにしたため最終的な応用成果がでるところまでは至らなかった.しかし,萌芽的で面白い例が多数提案されており継続的な検討がなされればよい成果に結びつくと考える.

 

参加メンバー

氏名 所属 職名・学年
坂上 貴之(代表教員) 数学・数理解析専攻 教授
石本 健太 数理解析研究所 准教授
平島 剛志 白眉センター 特定准教授
その他:学部生4 名、院生(修士)5 名、院生(博士)1 名