セミナー等

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[SG2021-3]MACS共催 生物多様性コロキウム「市松模様を作る細胞」(2022年3月11日)
 

 MACS-SG3では、神戸大学・医学研究科の富樫英博士と龍谷大学・先端理工学部の村川秀樹博士に「市松模様を作る細胞 —実験生物学と理論のDUO—」というタイトルで講演していただきました。
 前半は、富樫博士が「細胞の並び替え現象」に対する実験生物学的アプローチとして2つのトピックを話されました。1つ目は、聴覚上皮組織における有毛細胞と支持細胞の並び替え現象についてです。最初はランダムに分布している有毛細胞と支持細胞ですが、発生の進行に伴って細胞が並び替わり、特定のパターン(市松模様パターン)を作ります。この市松模様パターン形成が、細胞接着分子ネクチンの特性(異種ネクチン間の結合力が同種ネクチン間よりも強い)と聴覚上皮組織におけるネクチン分子群の発現パターンの違いによって起こることを説明されました。2つ目は、細胞接着因子カドヘリンに注目した細胞の並び替え現象についてです。カドヘリンはネクチンとは反対の特性(同種カドヘリン間の結合力が異種カドヘリン間より強い)を持ち、異なるカドヘリンを持つ2種類の細胞を混ぜても同じカドヘリンを持つ細胞同士に選別されます。このカドヘリン依存的な細胞選別について、カドヘリン分子イメージングから見えてきた現在進行中の研究内容を紹介していただきました。
 後半は、村川博士が「細胞の並び替え現象」に対する理論的アプローチとして、ミクロ(数細胞レベル)とマクロ(数百細胞レベル)の視点での研究内容を紹介されました。特にミクロ視点の話では、前半の富樫博士が説明された聴覚上皮組織の並び替え現象に注目したお話をされました。これまでにも、この並び替え現象を説明しようと試みた理論的アプローチは存在していましたが、パラメータが多く、物理的な意味が不明瞭なパラメータも存在するモデルによるものでした。村上博士らは、細胞の接着力や収縮力などと相関性がある要素である界面張力(Interfacial Tension)に注目したシンプルなモデルを作り、有毛細胞と支持細胞の並び替えの時間変化を再現できることを見出しました。
 質疑応答では、細胞内分子メカニズムの詳細や界面張力の実際など、実験生物学と理論の両面のトピックに関して熱心な議論が繰り広げられました。
(文責:高瀬悠太)
 

 

[SG2021-3] ニワトリ胚観察実習(2022年2月18日)

 SG3「本物を見て考えよう!:脊椎動物の胚観察から数理の可能性を探る」では、後期の題材現象である「腸ぜん動運動」を観察しました。参加学生たちは自分達の手でハサミや注射器を扱い、孵卵約12日目の卵の中にいるニワトリ胚の各組織・器官を観察しました。そして、ピンセットをうまく使って、取り出した腸(腸管+腸間膜)から腸間膜を取り除き、腸管のみをタイムラプス観察することで、腸ぜん動運動の「実物」を自分たちの目で捉えることに成功しました。加えて、タイムラプス動画を用いた腸ぜん動運動のカイモグラフ解析も行い、ぜん動運動の回数や速度などの評価手法を体験しました。 
 今回の実習を通して、参加学生たちが腸ぜん動運動の「本物」に触れることで、観察・解析の難しさや面白さなどを実感してくれたと思います。
(文責 高瀬悠太)



 

 

第17回MACSコロキウム (2021年11月22日)

 2021年度3回目となるMACSコロキウムでは、早水桃子博士(早稲田大学理工学術院 専任講師/JSTさきがけ研究者)と倉谷滋博士(理化学研究所生命機能科学研究センター形態進化研究チームチームリーダー/理化学研究所開拓研究本部倉谷形態進化研究室主任研究員)による連続講演が行われました。

 一人目の講演者の早水桃子博士には「進化の系統樹と系統ネットワークに関する組合せ論」というタイトルで講演していただきました。 講演は系統樹と系統ネットワークに関する基本事項の説明から始まりました。系統樹とは進化の道筋の分岐などを記述するために用いられる最も基本的なグラフ構造であり、系統ネットワークとは系統樹を分岐だけではなく合流も表現できるように拡張したグラフ構造です。系統ネットワークの方が複雑な現象を記述できる一方で、その複雑さ故に有用で効率的なアルゴリズムが作りにくいという欠点があります。系統ネットワークによって進化のシナリオを探るためには、系統ネットワークに含まれる系統樹の数え上げ問題や最適化問題などを効率的に解くアルゴリズムを開発する必要があります。これが本講演の主眼です。
 続いて、定理の紹介に向けてグラフ理論における基本的な用語や記法に関する説明がなされました。系統樹と分岐の形が同じ(位相同型)グラフ構造として全域系統樹が導入され、全域系統樹に有向辺を加えたグラフ構造としてTree-based networkが導入されました。
 最後に、主結果である系統ネットワークの構造定理の説明がなされました。1つ目の主結果は系統ネットワークが4つのパターンから成る部分グラフ(極大ジグザグ・トレイル)に一意に分解できるというものです。4つのパターンへの分解は非常に強力で、各パターンにおいて全域系統樹と同じ制約を満たす辺の選び方が何通りあるかを瞬時に計算することができるうえに、ある1つのパターンが含まれているかどうかで系統ネットワークがTree-based networkかどうかを判定できます。これにより、系統ネットワークに含まれる全域系統樹の集合が、4つのパターンへの分解を利用して単純な集合族の直積で表せるという2つ目の主結果が導かれます。この構造定理(主結果2つ)は、系統ネットワークに含まれる全域系統樹やTree-based networkに関する様々な問題を非常に効率的に解くアルゴリズムを統一的な視点から与えることに成功しています。
 講演後の質疑応答では、4つのパターンへ分解するアルゴリズムの構成方法や、系統ネットワークにおいて効率的に解けない問題との違いなどについての議論で盛り上がりました。

(文責:伊丹將人)

 

 二人目の講演者の倉谷滋博士には「進化と発生のパターンについて」というタイトルで講演していただきました。

 

  講演は、「動物の発生過程は、その動物の進化過程を繰り返す形で進行する」と考える反復説の歴史から始まりました。そして、比較形態学的な議論から発展した「砂時計モデル(発生様式の変化は発生中期には起こりにくい)」について説明されました。倉谷博士たちはこの砂時計モデルについて、遺伝子発現の面からアプローチを行いました。マウス・ニワトリ・アフリカツメガエル・ゼブラフィッシュの4種類の脊椎動物胚について各発生段階の遺伝子発現パターンを比較した結果、咽頭胚期(脊椎動物の発生中期)が最も類似していることを見出しました。また、遺伝子発現制御機構(プロモーターやエンハンサー)の使われ方についても同様の解析を行った結果、進化的に新しい遺伝子発現制御機構は発生後期に使われやすい傾向にあることを見出しました。これらの解析結果は、分子生物学的な解析から反復説や砂時計モデルを含んだ進化過程にアプローチできることを示しています。

 講演の後半では、生物がどうやったら大きく形態を変えることができるのかについて、倉谷博士たちが解析されたカメの甲羅(脊柱と肋骨に相当)の例を説明されました。「カメ以外」の脊椎動物の肩甲骨は肋骨の背側に存在しますが、「カメ」の肩甲骨は肋骨の腹側に入り込んでおり、肋骨と肩甲骨との位置関係が大きく異なっています。そこで、カメの発生過程を調べてみると、胸骨と肋骨遠位部が存在しないために肋骨が横方向に伸びてしまい、結果的に肩甲骨が腹側に潜り込んでしまうことが分かりました。次にカメの進化を考えるために化石を調べてみると、胸骨がなく肋骨が途中で終わっているグループがおり、そのグループ内では肩甲骨と肋骨の位置関係は様々であることが分かりました。そこで、中国の研究グループと一緒にカメの祖先種オドントケリス(Odontochelys)の化石を解析した結果、現生カメはオドントケリスの発生過程を繰り返している可能性が高い(=反復説的である)ことを明らかにしました。

 最後は、進化過程において発生プログラムの変化がどのように起こったのかについて、円口類(現生の脊椎動物で最も古くに分岐したグループ)のヌタウナギとヤツメウナギの頭部発生比較の研究や、クジラ類と一般的な哺乳類の鼻の位置の違いの話を通して自身の考えを説明されました。

 講演後の質疑応答では、発生プログラムの変化に関する議論を始めとして、クジラの祖先の形態的特徴に関する知見や、獲得形質の遺伝と進化の関係性などの話題などで大いに盛り上がりました。

(文責:高瀬悠太)

 


[SG2021-3] ニワトリ胚観察実習(2021年8月19-20日)

 SG3「本物を見て考えよう!:脊椎動物の胚観察から数理の可能性を探る」では、前期の題材現象である「体節形成」を観察しました。参加学生たちは自分達の手でハサミや注射器を扱い、孵卵約1.7日目の卵の中にいるニワトリ胚、そして、約15ペア作られている体節を自身の眼で観察しました。加えて、体節を含むトリ胚後方組織をゲル上で培養し、顕微鏡下で体節形成が進む様子を捉える実験操作を試みました。予備実験では約1.5時間に1ペアずつ体節が増える様子が観察できたのですが、ゲルの状態や培養条件が悪かったのか、実習では全員失敗してしまいました。また、体節になる予定の未分節中胚葉(PSM)への遺伝子導入も試みました。PSMに遺伝子導入溶液を注入する操作が難しかったようで、狙った組織ではない場所に遺伝子導入されてしまう結果が出てしまっていました。 
 今回の実習を通して、参加学生たちは実際のニワトリ胚の美しさや、論文で書かれている内容を「本物」で観察・検証することの難しさなどを実感してくれたと思います。
(文責 高瀬悠太)
 


 

 

第16回MACSコロキウム (2021年7月5日)

 2021年度2回目である第16回MACSコロキウムでは、谷村吉隆 博士(京都大学大学院 理学研究科)と西森秀稔 博士(東京工業大学 科学技術創成研究院)の連続講演が行われました。

 一人目の谷村吉隆 博士には「生物化学物理を支配する非平衡量子統計力学」というタイトルで講演していただきました。講演は量子力学(シュレディンガー方程式)の解説から始まり、量子散逸系の動的過程を非摂動的に厳密に計算できない問題点について説明されました。続いて、谷村先生ご自身が導出された、この問題点を解決可能な方程式である「量子散逸系の階層方程式(Hierarchy Equations of Motion; HEOM)」について解説されました。最後に、HEOMの生物化学物理への応用例として、熱浴モデルで記述される広範囲の問題の熱力学量を計算可能とする、HEOMによる熱力学変数の計算に関する話題などを話されました。講演後の質疑応答では、HEOMの考え方や応用への取り組み方など、深い内容の議論で大いに盛り上がりました。
(文責:高瀬悠太)


 

 第16回MACSコロキウムの二人目の講演者は西森秀稔博士(東京工業大学 科学技術創成研究院)で,「量子アニーリングを用いた量子系のシミュレーション」というタイトルでご講演いただきました.

 

 量子アニーリングとは,組み合わせ最適化問題の解法として西森先生らにより提案・定義された汎用近似解法のことです.ここ数年において,量子アニーリングマシンを量子力学の実験装置として使った研究が急速に発展しています.もちろん,我々が普段使用しているコンピュータでも数値計算により実際の現象をシミュレーションできますが,量子アニーリングマシンでは,実際の物理現象を量子チップ内で人工的に引き起こし,物理実験装置として利用します.ご講演の前半では,研究方法の基盤となる量子アニーリングについての入門部分を平易にご説明いただきました.量子力学における状態の重ね合わせとその行列表現から復習し,量子アニーリングが組み合わせ最適化問題の解法のために提案されたことの背景と理論的な枠組みをご解説いただきました.

 後半は,量子アニーリングを応用した量子シミュレーションによる最新の研究成果へと話題がうつります.まずはKosterlitz—Thouless転移とShastry—Sutherland模型に関する結果を丁寧にレビューしていただき,最新研究の一端を垣間見ました.その後,いよいよ主題であるKibble—Zurek機構に関する西森先生の研究成果をご紹介いただきました.非平衡相転移に関わる理論Kibble—Zurek機構についてその問題意識から丁寧にご説明いただいた後,人工的な量子デバイスであるD-waveの量子アニーリング装置を用いて実験的に検証したところ,孤立系について構築された一般化Kibble—Zurek機構が,環境と相互作用している系に対しても成立しているだろうと結論づけました.特筆すべきは,量子シミュレーションにより,理論がその適用範囲を超えて成立することの示唆を得た最初の例であるということ,そして古典モデルではD-waveマシンのデータを説明できないということです.他にも,量子シミュレーションによる実験データと理論とが整合していることを検証した西森先生の研究成果としてGriffiths—McCoy特異性に関するものがありますが,今回は時間の都合上,残念ながらご紹介いただくことは叶いませんでした.

 ご講演後の質疑応答では,「量子アニーリングを用いたシミュレーションは,どのような問題に対して古典コンピュータによるシミュレーションよりも大きな利点をもつのか」という核心的な問いが提起されましたが,これは未解明であり,解決へ向けて今後より一層の理論研究が待たれるとのことです.

(文責:小林 俊介)

 


[SG2021-2 セミナー] (2021年6月3日)

今日(6/3)のセミナーでは、Epic Gamesが開発したゲームエンジンのUnreal Engineを初歩から解説してもらいました。去年度のSGではUnityを用いたアプローチが進められていたようですが、Unreal Engineのポテンシャルの高さから、今年度からUnreal Engineも採用しようということになりました。Unreal Engineは本SGのテーマの一つであるXRに関連した開発も可能ですが、世間で最も多く利用されている用途はゲーム開発です。そのため、まずはUnreal Engineでどのようにゲームを製作するかについての初歩を学び、Unreal Engineの操作に慣れることから始めようとしました。図にあるように、オブジェクトとキャラクターの動きについて説明してもらいました。エフェクトやオブジェクトについての知識を実際に触ることで知る必要があると感じました。今後は、参加者それぞれの興味がある分野について調べて実際に手を動かして学んでいくことになる予定です。Unreal Engine学習の参考として「Unreal Engine 4で極めるゲーム開発:サンプルデータと動画で学ぶUE4ゲーム制作プロジェクト」という書籍や「アンリアルクエスト~グレイマンからの5つの挑戦状~」というウェブサイトが推薦されました。

「アンリアルクエスト~グレイマンからの5つの挑戦状~」,
https://www.unrealengine.com/ja/events/how-to-join-unrealquest-uefestextream2021summer

(生命科学研究科M1 木南 武)

 

第15回MACSコロキウム・2021年度MACS学生説明会 (2021年4月23日) 

 2021年度初回である第15回MACSコロキウムでは、石川博 博士(早稲田大学 理工学術院 基幹理工学部 情報理工学科)に「機械に認識させるとはどういうことか」というタイトルで講演していただきました。

 講演は、視覚の難しさの解説から始まりました。私たち人間は写真や2D画像を見てもそれを3次元的に正しく捉えられます。しかし本来、画像の3次元的な捉え方には無数の解釈が存在するため、正しい解釈を選ぶのは非常に難しいはずです。実は、人間の脳(視覚)は「予想」を持って画像を解釈しており、この予想が画像の正しい解釈を導き、時に錯覚や錯視を引き起こしています。これらのことから、機械に画像を正しく認識させる(=機械が視覚を手に入れる)には、機械の中に事前予想(事前確率分布)を作る必要があるわけです。続いて、機械による画像認識の歴史について説明されました。入力された特定の特徴をもつ物体を認識させる「特定物体認識」は以前からできていたそうですが、物体の特徴そのものを自己学習させた上で物体を認識させる「一般物体認識」は近年の第3次AIブームまで困難だったようです。この第3次AIブームによって、膨大なデータ計算が必要な深層学習(人工ニューラルネットワーク)が実現されるようになり、自己学習による事前予想に基づいた、犬と猫を区別する・白黒写真をカラー化する・部分欠損した画像を補完する、等の一般物体認識ができるようになってきたとのことです。講演の最後は、深層学習の今後の課題として、1) 学習データが大量に必要なこと、2) 人工ニューラルネットワークの構造設計の指針が不十分なこと、3) どうやって高性能な事前予想が実現されるのかが分からないこと、の3点について解説されました。特に3点目に関しては、深層学習による事前予想の導き方を理解するために、関数族に基づいた構造の言葉で問題を設定した上で解(アルゴリズム)が考えることが重要であると説明されました。講演後の質疑応答でも、機械学習・深層学習の現状や今後の発展性などについて様々な議論で盛り上がりました。
(文責:高瀬悠太)