[SG1]データ同化の数理と応用:理論モデルとデータをつなぐデータサイエンス

図1: 理研京大データ同化ワークショップ (2018年7月17日)






図2: データ同化講義のポスター
 

活動報告

活動目的・内容

近年発展のめざましい数理統計学分野の1つに「データ同化」がある。データ同化は、現象の理論数理モデルのシミュレーション結果に本質的に含まれる予測誤差を観測データによって補正を行い、その予測力を向上させる手法である。例えば現在の数値天気予報における予測可能期間の向上はデータ同化手法のもたらしたものである。一方、理学研究の各分野においては実験・観測によるデータ研究と理論モデルによる研究がその両輪となっており、現代の数理統計的手法によって、精密化・大規模化するデータを有益に利用して理論モデルに組み込む新しいスタイルの研究が可能になりつつある。また、企業などにおいても長年蓄積された技術の理論モデルと計測データとの高度融合が望まれており、そのような開発を担う高度な職業人の輩出も大学にもとめられている。このような状況に対して、昨年に引き続き、理学における様々なデータと数理モデルを融合するデータ同化の基礎と応用について講義と実習およびその後のフォローアップのセミナーやチュートリアルを軸とした年間のコースを実施し、データ同化を用いた各理学分野の新研究の創出、理学研究科の修士/博士学生の新しいキャリアパス構築を目指す。

 

活動成果・自己評価

活動成果:平成30年度の活動として、前期に講義「データ同化A」を実施した。 9名が履修し、データ同化の理論と応用について、その入門から基礎を学んだ。低次元のカオス力学系モデルを使った実習課題に取り組むことで、実際の問題に適用するために必要な実践的な基礎技術を習得した。受講生のアンケートの結果、アンケートに答えた8名中7名がデータ同化の研究に興味を持ったと回答し、うち3名が大学院でデータ同化の研究に取り組んで学位取得を目指すことに興味があると回答した。

 

自己評価:前期の講義では昨年度よりも受講生が半分程度まで減り、後期の講義は不開講とした。前期の講義は昨年度と同様、参加者の意欲は高く、学習の効果は上がった。学生がデータ同化のような分野横断型の分野で研究し学位取得を目指す際に、大学院での受け皿の問題が依然残っていることが認識された。

 

参加メンバー

氏名 所属 職名・学年
坂上 貴之(代表教員) 数学・数理解析専攻 教授
余田 成男 地球惑星科学専攻 教授
三好 建正 理化学研究所 チームリーダー
大塚 成徳 理化学研究所 研究員
小槻 峻司 理化学研究所 研究員

その他・学部生・院生 9名(前期)

 


[SG2]VRで見る・3Dで触る先端科学

VRの活用例(分子軌道)


VR の活用例(流体力学の 3D 可視化)

 

報告会資料ダウンロード(2.93MB)

活動報告

活動目的・内容

2016年は「VR元年」と呼ばれ、様々な装置の登場により、今までにない現実感・没入感をもって仮想現実の世界を楽しむことができるようになった。もちろん数理科学・自然科学においても、様々な分野に現れる3次元的な対象を観察して理解することは重要であり、紙やディスプレイなどで2次元に投影したものを見るだけでは十分に理解できないことも多い。そのような複雑な対象を、没入型VR装置を用いてその中に入りこんで観察したり、3Dプリンタで実際に出力して触ってみたりして、対象をより身近に体感し、新しい構造や現象を発見したり、より深く理解する為の手法を学ぶ。

 

活動成果・自己評価

8月に行ったガイダンスでは、参加学生に実際にVR装置を体験してもらい、その後で3Dモデルのフォーマット、ゲームエンジンを用いたVRアプリケーションの作成方法などについて解説した。その後9月下旬に集中して作業をし、参加者個々人の専攻・専門分野において興味ある対象を可視化するためのアプリケーションの開発などを行ってもらった。

学生の作品には、スマートフォンで動く分子軌道ビューア、光速が遅くなった時の色の見え方を表示するものなどがあり、一緒に制作に参加した教員も、球面二重振り子、Clebsch曲面 (27本の直線を含む三次曲面)、流体力学の可視化などを作成した。できあがった作品については、順次 https://macs-vr.github.io/ にて公開していくので、そちらを参照されたい。残念ながら未完成に終わった参加者もいたが、VR装置を使うための基礎的なことは理解してもらえたのではないかと思う。

来年度も(できればそれ以降も)このSGは継続する予定なので、これまでの成果や蓄積を踏まえて更に面白い作品が現れることを楽しみにしている。 残念ながら今年は3Dプリンタは利用されなかった。こちらも作品を気軽に手に取って見られるという意味では大きなメリットがあると思うので、こちらでももう少しサンプルを用意するなどした上で、来年度以降取り組んでくれる学生が来ることを期待したい。

今年度は1週間強という短い期間では時間が足りなかったようで、その後時々報告をしてもらいながら自主的に作品を作ってもらった。残念ながら参加者の都合がつかずミーティングが開けず、メールで報告してしまう形になってしまった為、未完成のまま終わってしまう参加者も多かった。来年度は夏休みに集中してやることに加えて、隔週程度でミーティングを開き、VR体験や経過報告などをしながら作業をしてもらおうと考えている。

 

参加メンバー

氏名 所属 職名・学年
稲生 啓行(代表教員) 数学・数理解析専攻 准教授
坂上 貴之 数学・数理解析専攻 教授
佐々木 洋平 数学・数理解析専攻 助教
松本 剛 物理学・宇宙物理学専攻 助教
市川 正敏 物理学・宇宙物理学専攻 講師
阿部 邦美 化学専攻 技術専門員
山本 隆司 生物科学専攻 技術専門職員
石塚 裕大 数学・数理解析専攻 MACS特定助教
中野 直人 理学研究科 連携講師
小山 糧 化学専攻 D1
丸石 崇史 物理学・宇宙物理学専攻 M2
松澤 優太 化学専攻 M1
岡田 凌太 地球惑星科学専攻 M1
Cai Zhirong 地球惑星科学専攻 M1
近藤 祐人 数理科学系 B3
多胡 徹也 生物科学系 B3
佐々木 眞帆 理学部 B2
その他:博士後期課程 1名
 

[SG3]本物を見て考えよう!脊椎動物の胚観察から数理の可能性を探る

図1. 論文輪読の様子

論文1で語られていた粘土による絨毛形成モデルを自分たちでも検討し、モデルの適切性などを議論した。



 

図2.トリ胚実習の様子(前期)
トリ胚中腸を解剖し、絨毛形成の過程を自分たちでも観察した。

 

報告会資料ダウンロード(2.36MB)

活動報告

活動目的・内容

本SGは昨年度に引き続き、生き物のかたちづくりの過程で生じる多様な生命現象を数理モデルで説明できる可能性について議論することを目的とする。そのため、発生現象に関する分野横断的(数理+生物科学)な論文の精読と、実際の胚観察とを併せて実施する。

今年度注目するトピックは組織の「硬さ」や組織にかかる「力」など、物理的な要素が発生現象に与える影響についてである。前期には、脊椎動物の腸内にできるヒダヒダ構造(絨毛)の形成に関する論文1を精読する。この論文では、腸を覆う筋肉層が腸の形態に物理的な制約を与えることで、絨毛形成が進行することを明らかにしている。この他、2016年度の SG でも扱った腸のルーピング構造形成についての論文2も同時に輪読する。もう一つの重要な活動であるニワトリ胚実習では、腸の絨毛やルーピングの形成過程の観察や実験を行う予定である。

後期には、細胞の集団移動における足場組織の硬さの役割に注目した論文3の輪読を予定している。これに加えて、発生過程における「力」や「硬さ」の役割に関する総説も読み、物理的な要素の測定方法や人工操作法の最新知識を学び、ニワトリ胚実習にも活かしていく予定である。

 

1: “Villification: How the Gut Gets Its Villi”, Shyer AE. et al., Science, 2013
2: “On the growth and form of the gut”, Savin T. et al., Nature, 2011
3: “Tissue stiffening coordinates morphogenesis by triggering collective cell migration in vivo”, Barriga EH. et al., Nature, 2018.

 

活動成果・自己評価

本SGの参加学生は学部生のみであったが、全員が数理と生物科学との融合研究に強い興味を抱いており、精力的に題材論文の精読に取り組んだため、SG活動時に活発な議論が飛び交った(図)。加えて、数学・物理の参加教員による論文の数理部分の解説や、数理と生物科学との融合研究に取り組んでいる生命科学系の参加教員らによるコメントもあり、当初の想定以上に深い理解ができた。後期は当初予定していた論文ではなく、聴覚・嗅覚の感覚細胞の感覚器官内分布パターンの形成に関するレビュー ”Differential and Cooperative Cell Adhesion Regulates Cellular Pattern in Sensory Epithelia, Togashi H., Front. Cell Dev. Biol., 2016” を輪読した。この論文では、感覚細胞およびその周囲の細胞との間での細胞接着力の違いが分布パターン形成に寄与していることを解説しており、細胞接着力の強弱の定量性測定や定量的データに基づいたシミュレーションの必要性についての議論が盛り上がった。

ニワトリ胚の観察実習として、前期は腸内のヒダヒダ構造(絨毛)の発生過程を、後期は腸ルーピングおよび内耳の発生過程の観察を行った(図)。実際に自分の手を動かしてみることで、論文の写真からでは分からない、本物の美しさや複雑さなどを感じることができたと思われる。この他、本SGでは、主催/共催含めて5回の外部セミナーを開催した。特にEdouard Hannezo 博士と進藤 麻子博士のセミナーでは、細胞の集団挙動や組織の枝分かれ構造について数理を駆使したアプローチを試みており、数理と生物科学との分野横断的研究の最前線の話を聞くことができた。

 

参加メンバー

氏名 所属 職名・学年
高瀬 悠太(代表教員) 生物科学専攻 MACS特定助教
荒木 武昭 物理学・宇宙物理学専攻 准教授
國府 寛司 数学・数理解析専攻 教授
高橋 淑子 生物科学専攻 教授
平島 剛志 医学研究科 講師
本田 直樹 生命科学研究科 准教授
田中 敬也 理学部 B3
石田 祐 理学部 B2
藤山 鴻希 理学部 B1
 

[SG4]種々の実例から考えるパターン理論

使用テキスト(Pattern Theory)
http://www.dam.brown.edu/people/mumford/images/PTCover.jp



 

報告会でのスライドから(参加学生の分析例)

 

報告会資料ダウンロード(635KB)

活動報告

活動目的・内容

昨年度に引き続き、Desolnaux と Mumford の Pattern theory をテキストとしてセミナーを行う。この本の主軸は、「文字列から文章を読み取る」「音声データから音楽を読み取る」などの身近なトピックについて、数理モデルによる分析、そして自動生成を行うことである。主軸のためにどう数理モデルを立てるか、そのために数学や情報理論からどのような概念が必要になるか、必要なアルゴリズムは何か、といった問題を順次取り扱っていく。実際にはトピックごとに章立てされ、章を追うごとに内容が高度になるように設計されている。

 

このセミナーの目的は、この本の輪講や議論を通じて、数理的な分析の背景にある考え方へ理解を深めることにある。また取り扱うトピックの具体性から、分野を超えた問題意識や知識、思考の共有なども議論を通じて行いたい。

実際の運用としては、まず各自の問題意識の共有、昨年度の復習から入り、その後は参加者の興味に合わせつつ、輪講や演習、論文紹介などを行う。ゆくゆくは最近のモデルについての検討や、自分の研究に活かす試みも目指したい。

 

活動成果・自己評価

予想以上の少人数制となったため、当初の活動予定からより参加者の興味と知識に合わせた形での実施となった。具体的には以下の通り:

  • 前年度でも重点を置いた第一章の内容を石塚が概説する(通年):情報理論の概念を言語化し、それを通じて一番シンプルな一章の内容をできるだけ理解するように努めた。各自の分野や経験からの問題意識の共有、不明な点の解消などは比較的すぐに行われていた。またこの議論を踏まえて、2月の成果報告会では参加学生が自主的に自分のデータと学習内容を使った分析結果を発表した。
  • 個々の研究分野の共有(11月〜1月):問題意識や基礎的な言語の共有ができたと判断したため、それぞれの研究や問題意識を共有した。
  • またセミナーとは別に、中野直人氏(SG11)との共同企画で、データ科学の数理的側面についてのワークショップを開催した。

登録学生が博士三回生のみという構成であったため、当初より演習や先進的な研究に繋げられなかったのは残念である。基礎的な事項の学習を踏まえて言語の共有を図る、という問題意識は十分意義があると考えているが、大学の授業科目などとの差別化やアピールなどをする必要が別にあると感じた。興味関心の共有は昨年度と比較して十分に取り計らうことができたが、まだまだ改善の余地があると考えている。

 

参加メンバー

氏名 所属 職名・学年
石塚 裕大(代表教員) 数学・数理解析専攻 MACS特定助教
橋谷 文貴 化学専攻 D3
林 重彦 化学専攻 教授
伊藤 哲史(後半から) 数学・数理解析専攻 准教授
 

[SG5]自然科学における統計サンプリングとモデリング:数理から実践まで

2018 年度 MACS 報告会資料「vdW 液体の凝固の分子動力学シミュレーション」
 



 

2018 年度 MACS 報告会資料「タンパク質の Zinc finger モチーフの機械学習による分類」

 

報告会資料ダウンロード(1.41MB)

活動報告

活動目的・内容

広範な自然科学において、統計サンプリングは普遍的な計算科学手法である。本 SG では、統計サンプリングやモデリングに関わる基礎理論を学び、プログラミングやシミュレーションの実践をグループディスカッション形式で行う。基本的には、参加者が自身の興味に基づいてテーマの提案及びプログラミング・シミュレーションの実践を行い、グループディスカッションで提案内容、実施結果や実施途中での疑問点等に関して検討を行う。理論的背景の知識や計算機を用いた実践に関する様々なレベルの参加者を期待している。分野外の初学者には基礎的な分子シミュレーションや単純な統計モデルのプログラミング・シミュレーションによる知識・技術の習熟、また既に習熟度の高い学生さんには各自の興味に基づく(おもろそうな)テーマ設定の検討及び実践を行う。このように、多様で自由度の高いテーマに対するプログラミング・シミュレーションとディスカッションをグループで(わいわいと)行い、自然科学における統計サンプリングやモデリングに関する幅広い視野を養う。

 

活動成果・自己評価

参加者が個々のテーマを設定し、その検討及び実装を行った。以下にそれぞれのテーマの内容について概説する。まず、タンパク質の 3 次元構造座標データベースから、タンパク質構造モチーフの一つである Zn フィンガーを有する構造を機械学習により判別する方法の開発を行った。3 次元構造座標から 2 次元の距離行列マップを作成し、Zn フィンガーデータベースの情報を教師データとして分類器を生成した。その結果、高精度でモチーフ判定を行う分類器を得ることに成功した。
次に、分子動力学シミュレーションプログラムコードの実装を行った。まずはニ粒子レナードジョーンズ原子の衝突からスタートし、周期境界条件下でのレナードジョーンズ液体のシミュレーションプログラムへと発展させた。それを用いて、半径の異なる二種類のレナードジョーンズ原子からなる混合レナードジョーンズ液体の徐冷過程のサンプリングシミュレーションを行った。その結果、半径の違いを変化させることにより、結晶化やガラス化、あるいはドメイン構造形成などの異なる振る舞いを観測することに成功した。また、植物の形態データ(ジャノヒゲ属とヤブラン属)や自己組織化分子クラスターの構造データの分類に関するアルゴリズムの考察・検討を行った。
また、外部講師を招聘し、以下の関連するテーマに関するセミナーを行った。佐々真一氏(京大理 )、分子モータの統計物理。Debashish Chowdhury氏(IIT-Kanpur)、分子モータの統計物理 。重藤真介氏(関西学院大)、ラマン顕微鏡分光とデータ解析。保木邦仁氏(電通大)、ゲーム人工知能(将棋ソフト Bonanza 開発者)

 

参加メンバー

氏名 所属 職名・学年
林 重彦(代表教員) 化学専攻 教授
高田 彰二 生物科学専攻 教授
渕上 壮太郎 生物科学専攻 特定准教授
田口 真彦 化学専攻 特定研究員
山本 裕生 化学専攻 D2
坂本 想一 化学専攻 D1
小山 糧  化学専攻 D1
松山 綾夏 化学専攻 M2
西尾 宗一郎 化学専攻 M1
松澤 優太 化学専攻 M1
新宅 和憲 生物科学専攻 M1
鹿倉 啓史 化学系 B4
齋藤 修 化学系 B4
水谷 淳生 生物科学系 B4
長江 文立津 生物科学系 B3
小池 元 数理科学系 B3
 

[SG6]自然科学へのゲーム理論的アプローチ

セミナーでの意見交換の様子



 

輪講したテキスト



 

2018年度MACS成果報告会発表スライドから

 

報告会資料ダウンロード(6.05MB)

活動報告

活動目的・内容

ゲーム理論のテキスト輪講と関連論文紹介のジャーナルクラブを並行して行う。テキストとしては、「繰り返しゲーム」を扱うG. J. Mailath and L. Samuelson, “Repeated Games and Reputations”, Oxford Univ. Press, 2006を使用し、関連論文の題材としては、霊長類生態系を中心に自然科学全般から、参加者自身または参加教員と相談しながら選定する。後期は、それらに加えて「量子ゲーム」または「アルゴリズム的ゲーム理論」を取り上げる予定で、詳細については後期が始まる前に通知する。前期のみ、後期のみの参加も可能である。 このSGの目標は、ゲーム理論を通して自然科学を横断的に見渡し、異なる専攻を持つ参加者が交流するための共通言語を身につけることである。参加学生の課題は、半期1,2回の各自担当の輪講と論文紹介のみであり、これを機に主体的に未知の分野を探検しようとする学生に適しているだろう。

 

活動成果・自己評価

前期は、テキスト輪講については、イントロ部分の「繰り返しゲーム」を考える動機付けから、通常のゲーム理論の数学的定式化を基礎として、繰り返しゲームの数学的定式化をいくつかの例題を見ながら学んだ。また、田島知之さんのセミナーを開催し、種ごとに異なる霊長類の群れの構造に関する基礎的知識について紹介していただき、ゲーム理論的な問題設定の仕方について意見交換をした。

後期は、学生が留学により輪講は行わなかったが、大槻久さんに「進化ゲーム理論と動物行動への応用」という題目で、「グラフ理論的枠組みを取り込んだゲーム理論」と「寒天培地上の微生物集団」や「魚類や鳥類の群れの順位構造」などの実世界で観測される現象との比較について講演していただいた。

あるクラスの霊長類の群れ構造を統一的に記述する数理モデルを見つける、という初期に取っ掛かりが掴めなかった、課題についても実際に検討を始め、試行錯誤の途中段階ではあるが、年度末成果発表会で発表をした。

このSG自体は今年度で一旦終了ではあるが、このSGで取っ掛かりを掴むことができた数理モデルの検討は個人的に続ける予定である。

 

参加メンバー

氏名 所属 職名・学年
太田 洋輝(代表教員) 物理学・宇宙物理学専攻 MACS特定助教
石塚 裕大 数学・数理解析専攻 MACS特定助教
田島 知之 生物科学専攻 研究員
原 渚彩 数理科学系 B3

[SG7]脳科学に関わる数理

 

毎週金曜日4限、後期は毎週木曜日の4限に輪読を行った。

 

報告会資料ダウンロード(2.50MB)

活動報告

活動目的・内容

 顕微鏡を用いた分子・細胞・組織のイメージングは、現代の生命科学を推進する強力な手法である。本SGでは、イメージングにより得られる動きや形の定量と、それに基づく数理モデル構築について議論する。また、昨今の生命科学における学際融合研究に必要な基礎知識となる数理、統計、計算生物学の入門となる場を提供する。

 

現状報告(3月11日時点)

SG7グループでは以下の4つの活動、(1)外部講師によるセミナー、(2)集中講義、(3)実践機械学習、(4)輪講を行った。
 

(1)外部講師によるセミナー

 
  • 機械学習の初歩の初歩(線形回帰)と身体運動科学への応用(10月9日)
  • ベイズ情報統合と身体運動学習 -運動学習の統一理論モデル提案の試み (10月9日)
    講演者:瀧山 健 博士(東京農工大学 准教授)
  • 霊長類脳における顔認識系の計算論(12月21日)
    講演者:細谷 晴夫 博士(ATR脳情報研究所・主任研究員)
  • 運動制御・学習の計算論的理解とその応用(1月18日)
    講演者:井澤 淳 博士(筑波大学 准教授)
  • 行動データの計算論モデリング: 統計モデリングとの関係および注意点(2月21日)
    講演者:片平 健太郎 博士(名古屋大学 准教授)
  • 時系列データに潜む振動現象の統計解析(3月14日)
    講演者:松田 孟留 博士(東京大学 特任助教)
 

(2)集中講義

 

確率過程における熱力学と情報理論の関わりについて、伊藤創祐氏(東京大学)による集中講義を2日間(1/29-30)にわたって開催した。
・情報熱力学入門
・生体情報処理への応用

 

(3)実践機械学習

 

 Googleが提供するクラウド計算機環境(Google Colaboratory)を利用して、ディープラーニングを実装するための実習型のミニ講義を、小島涼介氏(医学研究科)が行った。

 

(4)輪講

 

機械学習に関する輪講を、本田直樹氏(生命科学研究科)主導の下に行った。12月から毎週金曜日の4限に開催した。テキストは、ビショップ著「パターン認識と機械学習」の日本語訳を用いた。

 

参加メンバー

氏名 所属 職名・学年
加藤 毅(代表教員) 数学・数理解析専攻 教授
本田 直樹 生命科学研究科 准教授
小島 諒介 医学研究科 特定助教
松田 道行 生命科学研究科 教授
寺井 健太 生命科学研究科 准教授
上野 賢也 生物科学専攻 D1
小川 晃 生物科学専攻 M2
渡邊 絵美理 生物科学系 B4
山村 沙南 生物科学系 B3
宍倉 真理 生物科学系 B3
小池 元 数理科学系 B3
妹尾 歩 理学部 B2

その他の学生12名

 


[SG8]数理で探求する生命現象の新たな描像

MACSセミナーのポスター



 

鳥取大学 & MACS共催ワークショップのオープニング



 

ドローンから見た北部キャンパス(阪空運第14260号)



 

飛行前の準備と、観察を終えて帰途についた時にドローンから見た我々。
鳥取大学の学生と教員も帯同した。

 

報告会資料ダウンロード(1.01MB)

活動報告

活動目的・内容

生体分子による振動形成、振動子と細胞・個体振動現象、細胞や細胞集団の運動の数理、流体力学で理解される細胞の運動など、生命現象を数理的に理解する方法論はこれまでに大きな成功を収めてきている。本スタディグループではそれら成功例に基づきつつも、既存の研究パターンに囚われない多角的な視点で生命現象を発見的に観る活動を行う。

ゼミにおいては、担当教員が専門分野における問題点を紹介し、その解決へ向けた議論を行う。具体的には、植物概日リズムや、流体・非線形系の諸問題、細胞運動などを取り上げる。多様な視点から議論することで、まったく異なる様に見える各課題の背後にある一般性に着目した思考や、生命現象と数理的原理を結びつける研究プロセスなど学び、新しい視点での課題解決を目指す。

また、研修やフィールドワーク、サンプル採取などを1回または2回実施する。これまでの例として、鳥の群れの波動伝搬の観察、発光水棲微生物の採取と発光強度測定、蛍の発光同期現象の観察、有孔虫の採取と運動の観察、などを実施してきている。本年度は、遊泳微生物のサンプル採取と顕微鏡観察、ドローンを用いた灌木の周期的立ち枯れの観察、などの案が挙がっている。異なる分野の研究活動や研究対象を体感し、多角的な思考や発見的な研究姿勢を醸成する。

以上の活動を通じ、多様な生命現象の新たな一断面を照らし出し、生命現象の本質にアプローチする事を目指す。

 

活動成果・自己評価

本SGのゼミでは、細胞運動や概日リズムなどについて実験や理論をとりあげ多角的な視点から議論した。教員やメンバーの研究発表を出発点に議論を行い、現象の背後にある数理の理解を深めることができた。また石本健太氏をスピーカーにMACSセミナーを開催して生物流体分野の議論を深めた。以上の活動を通じてメンバー間での共同研究も進行中である。年明けに鳥取大学とMACSとの合同ワークショップを鳥取大学で開催し、走化性や細胞運動、概日リズムなどの生命現象の数理モデリングに関して討議した。

新しい実験測定手法開発の一環として、民生ドローンを購入して画像解析によるデータ取得を行った。SGのゼミでドローンの順法的飛行や航空局への飛行申請に関しての講習、ドローンの操作練習を行い、大学内での試験飛行を通じて操作の習熟や測定方法を検討した。更に、学部学生を含むSGメンバーで鳥取砂丘に出張し、実際にドローンを飛ばして静止画と動画の撮影を行った。得られた画像の空間周波数などを解析し、概ね期待していた通りにデータが得られる事を確認した。得られたデータは引き続き解析中であり、再現性や数理モデルとの関連等は次年度のSGでも継続して検討する予定となっている。

 

参加メンバー

氏名 所属 職名・学年
市川 正敏(代表教員) 物理学・宇宙物理学専攻 講師
小山 時隆 生物科学専攻 准教授
藤 定義 物理学・宇宙物理学専攻 准教授
松本 剛 物理学・宇宙物理学専攻 助教
石本 健太 東大・オックスフォード大 特任助教
大村 拓也 物理学・宇宙物理学専攻 学振PD
西上 幸範 物理学・宇宙物理学専攻 学振PD
幕田 将宏 物理学・宇宙物理学専攻 D3
小林 沙織 物理学・宇宙物理学専攻 D1
上野 賢也 生物科学専攻 D1
磯田 珠奈子 生物科学専攻 M2
篠 元輝 生物科学専攻 M2
丸石 崇史 生物科学専攻 M2
竹中 亮太 物理学・宇宙物理学専攻 M1
森 祐貴 生物科学専攻 M1
吉田 純生 生物科学系 B4
渡邊 絵美理 生物科学系 B4
吉永 彩夏 生物科学系 B4
宅雄大 生物科学系 B3

[SG9]疾患における集団的細胞挙動の数理モデルの開拓

病理画像解析ソフトの講習会



 

SG成果発表会の発表スライドより

 

報告会資料ダウンロード(1.80MB)

活動報告

活動目的・内容

非常にダイナミックな生命現象である「疾患」を数学・物理のテーマとして取り上げ、医学の研究グループと行っている共同研究に実際に参加することで、各自の専攻分野の知識を深めるだけでなく分野の枠を超えて研究の視野を広めることがこのSGの目的である。

参加者は数学・物理・医学の三つの研究グループを回って、このSGで用いる解析・モデル手法や理論について講義もしくは実際のデータを前にした実習を通じて習得する。例えば、さまざまな病理画像をどのように医師が見ているかについての講義(医学グループ)、これを解析する部分を実際に体験してもらう実習(物理グループ)、それらのモデル化を目指す界面ネットワークの数理に関する講義(数学グループ)などである。その中であがった成果や直面した疑問・問題点を全体のセミナーなどで発表・議論する。

 

活動成果・自己評価

本スタディーグループでは、病理組織の画像を解析して、健康な組織と区別するための物理量を見つけ出す、という一連の作業を担当教員の指導や助言の下で参加学生が自分の手で行った。数物系と生命科学系の学生を4つの班に分け、それぞれが異なる組織の癌について、以下のように研究を進めた。

  1. 病理画像診断に関する全体講義(鶴山)
  2. 実際の病理画像を教材に核などの特徴を抽出する方法に関する講習(山本・鈴木)
  3. 疾患に特徴的な時空間パターンの数値解析の例を紹介する全体講義(田中)
  4. 画像解析の進捗を報告し担当教員から助言を受ける打ち合わせ(複数回)
  5. 組織形成の数理モデリングに関する全体講義(Svadlenka)
  6. 病理画像解析ソフトの講習会や医数物勉強会などの関連イベント

進捗程度は班によって様々だったが、癌の状況の判定に使えそうな指標候補を見つけた班もあった。今年度で初めての企画であったにも関わらず、自ら意欲的な学生が多く、満足できる成果があがった。

来年度も引き続き活動が認められた場合、現在の方針に加え、市販の画像解析ソフトや機械学習などのツールも最大限に活用し、学生との共同研究を発展させる予定である。

 

参加メンバー

氏名 所属 職名・学年
Karel Svadlenka(代表教員) 数学・数理解析専攻 准教授
田中 求 高等研究院・ハイデルベルグ大学 教授
鶴山 竜昭 医学研究科 特定教授
坂上 貴之 数学・数理解析専攻 教授
山本 暁久 高等研究院 特定助教
鈴木 量 高等研究院 特定助教
幕田 将宏 物理学・宇宙物理学専攻 D3
向井 大智 数学・数理解析専攻 D2
浅倉 祥文 生命科学研究科 D1
矢ヶ崎 怜 生物科学専攻 M1
小倉 将紘 物理学・宇宙物理学専攻 M1
太田 友 生物科学系 B4
小池 元 数理科学系 B3
多胡 徹也 生物科学系 B3
石田 祐 理学部 B2
藤﨑 碩人 理学部 B2
妹尾 歩 理学部 B2
その他:博士後期課程 1名