名誉教授随想『退職後の生活から考えること』

名誉教授随想『退職後の生活から考えること』

元生物科学専攻(動物学系)所属・名誉教授 沼田英治

 
 

 この3月末に定年退職しました。前任の大阪市立大学を含め37年間の大学教員生活を、穏やかな気持ちで終えることができました。「退職したらこれまで行けなかった季節に旅行をしよう」と楽しみにしていましたが、新型コロナの影響で延期になっています。ずっと家にこもっているのは健康によくないだろうと思い、毎日1万歩歩くようにしています。現役時代から感じていましたが、歩くのは体によいだけではなく、脳の活動にもよいようです。パソコンの前にいるよりも、歩いているときによいアイデアが浮かぶように思います。

 退職後も学術雑誌の編集や、元の教え子との共著論文の作成などしており、学問と完全に離れたわけではありません。オンラインで他の研究者と面談することもあります。しかし、緊急事態宣言の下で、直接話すのは妻とだけという日が続いています。長年連れ添った妻とは安心して話せる半面、緊張感がありません。1カ月が経過してクリティカルな議論をする能力が低下してきたように感じます。霊長類学者によると、ヒトという動物は、家族よりも人数の多い集団を作って言葉によるコミュニケーションをする生活が基本だそうです。やはり、緊張感をもって相手の表情やしぐさも見ながら会話をすることは、わたしたちにとって必要なことではないかと感じています。

 現役教員のみなさんは、新型コロナの影響下でいかに有効にオンライン授業を行うかということに注力されており、その有効性に疑問をはさむ発言はしにくい立場にあると思います。また、多くの会議もオンラインで開催されているでしょう。しかし、現場を離れたわたしには直接会話の重要性がひしひしと感じられます。対面での会話が乏しいことの弊害が顕著に出る前に、一刻も早く対面で授業や会議ができるようになることを願っています。