地球惑星科学専攻(地質学鉱物学教室) 准教授 伊藤正一

 
 

「太陽系の起源物質とは?」という問いに対して、地球外物質であるコンドライト隕石やリターンサンプル(月アポロ試料、はやぶさイトカワ試料など)の岩石学的組織学と同位体地球化学的組織学を融合した研究を行い、太陽系起源論に一石を投じることを目指している。

 

京都大学で開発してきた同位体顕微鏡システム(SIMS、LA-ICP-MS(図1))による研究例を紹介する。ppmレベルの微量な水素から重金属(ウランなど)までの二次元分布を可視化し、cmオーダーからµmオーダーの大小様々な試料のイメージング分析を可能とする。同位体イメージング像は、サブミクロンオーダーまでの空間分解能を有し、鉱物レベルで同位体分布を可視化することできる。電子顕微鏡による元素分布と融合し、結晶化したときの温度、圧力、環境変化などに制約を与えることが可能となっている。

 

従来のこの種の研究では、1960年代の月アポロ帰還を皮切りに、炭素質コンドライト隕石(はやぶさ2採取予定のRYUGUも?)や彗星塵(星間塵)などの分化していない地球外物質を対象として、世界で盛んに行われてきた。地球にたまたま大量に降ってきた水質変質作用により起源情報が失われている隕石から研究が開始され、半世紀近くたった今日では、水質変質作用をうけていない太陽系起源物質の特徴が徐々に構築されつつある。

 

そんな折、理学部の卒論研究において、変質を受けていないとされてきた隕石の同位体顕微鏡の238Uマッピングにより(図2)、水に可溶性のあるppmレベルのウランの濃集部が存在することがわかった。つまり、現在では存在しない水の変質を受けた領域を可視化することに成功し、より始原的なウランの枯渇した領域から太陽系起源論の特徴を調べる必要性があることがわかってきた。今年の暮れには、はやぶさ2が帰還予定であり、たまたま地球に降ってきたものでなく、隕石研究では見出すことができなかった太陽系起源論の特徴を引き出せないかと期待している。

 

図1: 理学部1号館147宇宙地球化学実験室 同位体顕微鏡システム概観写真

図2: 炭素質コンドライト隕石の実体光学顕微鏡像(左)とLA-ICP-MSによる238Uのマッピング像(右)