名誉教授随想『研究生活を振り返って』

名誉教授随想『研究生活を振り返って』

元数学・数理解析専攻(数学系)所属・名誉教授 重川 一郎

 
 

私が京都大学に入学したのは1972年でした。入学式は途中でヘルメットを被った学生が壇上で総長を取り囲み、騒然とした中で中止になりました。学生運動がまだ尾を引いている状態で、大学構内は騒がしさに満ちていました。その学生運動も次第に下火になり、今では平穏そのものと言ってよく、隔世の感があります。当時を思い返すと、騒がしくはあるが熱気みたいなものがあって、それなりに面白さのある時代でした。

 

学部では数学を学び、大学院も数学専攻を選びました。専門は確率論です。大学院に入学した1976年に、伊藤清先生が確率微分方程式の国際研究集会を開催しました。この研究集会はなかなか盛況だったのですが、ここで私はマリアヴァン解析というものに出合いました。正確には、その報告集の中で出合ったというべきでしょうが。これはフランスのマリアヴァン教授が創始した確率解析の新しい手法で、私の修論もこのマリアヴァン解析に関するものでした。そのころから急速にマリアヴァン解析は発展していきました。そういう理論の黎明期に自分の研究生活を始めることが出来たことは本当に幸運だったと思えます。

 

さて、研究のスタートを切ってから、1979年に大阪大学に助手(今でいえば助教)としての職を得ることが出来ました。そして結局大阪大学に10年間在職し、1989年に京都大学に戻ってきました。1989年は平成元年に当たります。そして30年間京都大学に在職し、2019年の3月に定年を迎えました。この年は平成の最後の年に当たります。そのことが平成が終わる前に決まっていたことも珍しいことです。従って私の京都大学での在職は、平成とぴったり重なっている感覚です。この偶然の符合も何か感慨深いものがあります。

 

最後に、理学部という恵まれた研究環境で過ごすことができ、感謝に堪えない気持ちです。皆さんのこれからの発展を祈ってやみません。