名誉教授随想『翠巒』

名誉教授随想『翠巒』

元地球惑星科学専攻(地球物理学分野)所属・名誉教授 町田 忍

 
 

私は京都大学に20年間奉職した後に、名古屋大学に転出し、本年3月に定年を迎え退職した。そのような中、数々の思い出のある本学より名誉教授の称号をいただいたことは真に光栄に思う。

 

大学に限らず京都の街に住む人々は、一旦、外に足を踏み出すと、至るところに古の文化があり、それらに直に触れることができる。京大のある洛東の名所といえば、個人的には、何と言っても比叡山と対をなして並ぶ如意ヶ嶽、大文字山である。新入生を迎える4月には、今出川通りを東に進んで銀閣寺参道に至る所にある疎水の両岸に咲き誇る桜、そして、その花の頂を陣取って、青々とした山の緑の中に映える「大」の字は、春になると、決まって一幅の絵として思い浮かべる光景である。

 

また、夏期に実施される五山の送り火は、多くの祭礼や祝儀が挙行される京都にあっても特別の行事である。25年ほど前に、私が地球物理学教室に赴任してきた時分には、理学部4号館に研究室があった。当時は、今のような厳格な規制がなかったため、送り火の当日でも建物の屋上に上がることができた。そして、目前の大文字から始まり、ほぼ総ての送り火が次々に点火されていくのを、皆と共に荘厳な気持ちで見入ったことを思い出す。

 

さらに、秋には色彩豊かな山並みに映える「大」の字や、厳しい冬の中、雪化粧した山の頂にうっすらと「大」の字が浮かぶ姿も格別な光景として脳裏に焼き付いている。 特に、建物の耐震補強に伴って、理学部4号館から1号館へ教室全体で引っ越しをしてからは、私の居住した5階の部屋の廊下や、ゼミ室の窓からも目にすることができた。また、そのような特別な場合でなくとも、どっしりと構えた大文字から常に英気を貰っていたような気がしている。

 

翠巒に途示すなり大文字

 

良き歴史が継承されて、益々発展されて行かれることを祈念したい。